二拠点教育にローカルとデジタルのハイブリッド教育−−各地の先進事例から子どもの学びの未来を探る!

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社会が大きく変化しようとしている中で、次代を担う子どもたちはどのように育っていったらいいのでしょうか。

社会には新たな教育のあり方を模索し、実践を重ねている人たちが存在します。育まれつつある新たな教育の流れとはどのようなものか、どんな実践が行われているのかを本レポートで紹介していきます。

技術によって変化している私たちの暮らし

製造業の世界では、第4次産業革命とも呼ばれる新たな流れが生まれています。AI(人工知能)やインターネットが製造業に導入され、これまでの方法を大きく変えようとしています。

テクノロジーの進歩によってもたらされる変化は、製造業に限った話ではありません。AI、ロボット、自動運転、5G通信など、この先私たちの生活を変えうるテクノロジーが続々と登場しています。

こうしたテクノロジーの発達、タブレットやスマートフォンなどのスマートデバイスの普及によって、従来の教育のあり方は変化の兆しを見せています。オンラインに学習コンテンツが無料で公開され、通信技術も整ったことで快適にコンテンツを体験することが可能になりました。

多くの講座が無料で受講できるようになり、ネットに繋がれば好きな時間、好きな場所で、世界中の授業を受けることができる「MOOC(Massive Open Online Course)」と呼ばれる取組が進んでいます。

1人の先生から教わるのではなく、ネットワークで人々とつながり、様々な知識や経験にアクセスしながら学んでいく「ソーシャルラーニング」という新しい学習形態も注目されるようになってきています。インターネットとスマートデバイスが普及したことで、場所を選ばず学ぶことが可能になってきており、学びは「モビリティ性」が高まっています。

一方で、人との関係を構築することや自らの居場所だと思える土地を持つといった「ローカル性」の価値が見直されてきています。さらには、子どもが実際に人と会うことや一緒に時間を過ごすといった「タンジブル性」の価値も忘れてはなりません。

テクノロジーが進歩し、学びのモビリティ性が高めながら、「ローカル性」や「タンジブル性」も大切にする。どちらも軸とするハイブリッドな教育のあり方を追求する動きが各地で生まれてきています。

変化に適応した新たな教育のスタイルが各地で育まれつつある

まず、世界各地で生まれている先進的な教育の流れをいくつかご紹介します。

・サドベリースクール

サドベリースクールとは、1960年代にアメリカ・ボストンに誕生したサドベリー・バレー・スクールに共感し、同じ教育理念のもとで運営されている学校の総称。

『人は本当にやりたい、必要だと感じた時に一番よく学ぶ』をモットーに、子どもたちが自らの好奇心がおもむくことを追求できる仕組みとなっています。

サドベリースクールには、授業もない、時間割もない、クラスもありません。そのために必要なシステムやルールさえも、自分たちでつくることが可能です。

・a.school

a.schoolは、東京都にある「学び続ける力」を養うための学習塾。子どもが自らの興味関心に従って、探究・創造・協働のサイクルを回し、それぞれの好きなことや強みを引き出して、子どもの力を最大限伸ばしていくことを大切にしています。

従来の学校教育のような、一方的に知識を教え、子どもたちは知識を覚えて問題を解くだけのインプット学習ではなく、自分にとっての「なぜ?」という疑問を追求していくアウトプット型の学び(アクティブラーニング)を掲げています。

a.schoolの授業は講義型ではなく、グループワークや個別指導を掛け合わせた双方向型(ワークショップ形式)で授業は進み、他者と関わり共に学ぶことで得られる、学びの相乗効果や他者との協働体験(チームワーク)を重視しています。

・レッジョ・エミリア教育

「レッジョ・エミリア・アプローチ」は、イタリアのレッジョ・エミリア市発祥の幼児教育実践法です。

「子どもは100人いれば100人の個性があり、100の可能性がある」という信念のもと、子どもの主体性を大切にしながら、子どもの表現力やコミュニケーション能力、探究心、考える力などを養うのを目的としています。

教育のアプローチとして、自由に表現し学ぶためにアートが使われていたり、自主性と協調性を育むために子ども同士で進めていくプロジェクト活動などが行われています。

・まちの保育園

前述のレッジョ・エミリア教育に影響を受け、日本でつくられたのが「まちの保育園」です。保育においてコミュニティの力を信じている点が、レッジョ・エミリア教育との共通点。

人との出会いが子どもの成長に大きな影響を与えると考え、街ぐるみで子どもを育てる環境を保育園から作るため、パン屋とカフェを併設し地域の人が集まる工夫をするなど、ユニークな取り組みを実施しています。

「こどもが今、どのような芽を自ら伸ばそうとしているか」を見つめ、それが育まれるにはどんな環境や配慮があるとよいかを日々大切に考えています。

・森のようちえん

まちの保育園と同様に、日本で広まりつつあるのは、1950年代中頃にデンマークではじまった「森のようちえん」です。

森のようちえんの特徴は、とにかく「自然の中で過ごすこと」を重視する点。野外空間で毎日過ごす事は、こどもたちの心と体の成長に様々な刺激を与えます。自然の中で四季の移り変わりを感じることもでき、暑さや寒さなど気象現象にも負けないたくましい心と体が育まれます。

保護者である大人は「見守る保育」を徹底して行う事で、こどもの自主性を尊重し、一人一人が個性を発揮しながら成長していくサポートします。

智頭町にある「森のようちえん まるたんぼう」も、豊かな自然を存分に活かしている森のようちえんの事例のひとつ。「まちの保育園」の考え方にも近いコミュニティの力を取り入れ、お年寄りやものづくりをしている職人など、魅力的な人々とのふれあいをつくることで、地域の知恵を子どもたちに伝承していこうとしています。

・デュアルスクール

徳島では「デュアルスクール」と呼ばれる、徳島の学校と都市部の学校、どちらの良さも体験できる「新しい学校のかたち」が始まっています。

両都市の教育委員会から承認を得られれば、住民票を異動せずに転校が可能です。徳島と都市部の二つの学校が一つの学校のように教育活動を展開し、両校間を1年間に複数回行き来できます。

デュアルスクールは、地方と都市の両方の魅力や課題に気づき、デュアルな視点を持った多面的な考え方のできる人を育てることを目的としています。家族にとっても、児童生徒がいても地方と都市の二地域居住という可能性の広がりになります。

・ミネルバ大学

大学教育の事例としてユニークなのが、2014年9月にサンフランシスコにて開校した「ミネルバ大学(Minerva Schools at KGI)」です。ミネルバ大学は変化が速く、複雑で見通しが難しい国際社会に世界をリードできる人材を輩出するために学生に「専門知識」ではなく「学び続ける技術」を提供しています。

ミネルバ大学は全寮制の大学で、1年目はサンフランシスコで過ごした後、7つの国際都市での居住と現地でのプロジェクト学習を経験。約80%のクラスメイトが世界160カ国以上から受験して集まった留学生という多様性を持った学習環境で、最新IT技術を活用した少人数のセミナー形式授業が行われます。

こうしたプロセスを通して、クリティカル思考力、クリエティブ思考力、プレゼンテーション能力、対人コミュニケーション能力を獲得します。

先進的な事例から紐解くこれからの教育に重要なエッセンス

ラーンネットグローバルスクール代表の炭谷俊樹さんは、「第3の教育」で管理教育でも自由放任教育でもない、自らの生き方を考えながら主体的に学ぶ「探究型学習」の必要性を唱えています。

「デュアル・スクール」のように、これまでは特定の地域にとどまって教育を受けることがスタンダードでしたが、一つの土地に縛られず様々な場所で教育を受けるという学びのモビリティ化も起きはじめています。

「まちの保育園」に見られる教育者だけでなく地域の人からも学びを得るというコミュニティとの関係性を大事にした教育や、「森のようちえん」のように自然との距離が近い土地の特性を活かして自然からも学ぶ教育など、地域との関係性を活かした教育も増えています。

これまでの教育では、子どもたちは一様に決められたカリキュラムを受講する形式で行われてきました。本来であれば、何をどう学ぶかは子どもそれぞれの特性によって変わってくるはずです。歌を歌いながら英語を学んでもいいし、体を動かしながら数学を学んでもいい。本来、教育とは多様性が認められ、子どもの個性に合わせた学びが必要です。

デジタルな学びと融合させることで、子どもたちの個性に合わせた教育が実現できるようになってきています。

WEB学習サービス「スタディサプリ」は小学4年生〜高校3年生が学習する教科の授業を動画で配信。「学研ゼミ」では幼児から中学生までに対応した教材をオンラインで学習することが可能です。英語を学びたければ、オンライン英会話サービスを使って、英語を公用語として話すフィリピン人の英語講師から学ぶことも可能です。

これまでは予算的にも技術的にも難しかったことが、テクノロジーの発達により実現可能となりました。学習コンテンツも充実し、義務教育課程に必要な学びは、パソコンやタブレットを用いれば、時間や場所にとらわれず学習することが可能になりました。これらを上手く取り入れれば、子どもの個性に合わせた学び方が提供可能になります。

秋田のローカルで教育に起きている変化

教育水準の高さで知られる秋田でも、新たな教育の形が生まれています。秋田では、探究型学習にも力を入れており、子供たちが話し合いをしながら主体的に学ぶ「アクティブ・ラーニング」の先駆けとも言われています。

特に、移住して起業する若者や家族連れでの移住者が増えている五城目町では、次々と新しい取り組みが行われています。

・子どもたちがお試しで地域の暮らしを体験

秋田では、2016年より県外の小・中学生を対象とした「秋田で学ぼう!教育留学推進事業」をスタートしました。北秋田市に滞在しながら市内の小中学校で授業を受けたり、秋田の地域性を活かした自然体験や農業体験活動に参加し、秋田の教育を体感できる企画です。

このプログラムの特徴は、子ども一人一人に合わせたオーダーメイドのプログラムを提供している点。参加者の希望に応じて通年で随時受付、期間も参加者の都合で決めれるなど、自治体によるフレキシブルな教育留学として先進的な事例です。

「もっと子どもを自然のなかで育てたい」「都会の生活だけでなく、田舎暮らしも体験させたい」という親にとっては、移住せずとも一時的に地方の暮らしを経験させることができます。都心の学校や環境が合わない子どもにとっては、地方での人とのつながりや自然環境が、人間性が回復できる機会にもなりうると注目されています。

・ニューヨークと秋田のローカルで二拠点教育

ニューヨークを拠点にIT系の仕事をしている方が、1年の4分の1だけ秋田の五城目で子どもを育てるという二拠点教育に取り組んでいるという事例もあります。

日本の里山環境や文化の中で育てることに感動したことから、1年のうち限られた期間だけは里山で過ごすことを選んだそうです。

普段はニューヨークに住んでいますが、IT企業を自ら経営していることで柔軟に働くことができ、子どものために一定期間五城目に滞在しているそうです。この家族は、滞在中は地域の盆踊りにも参加するなど、地域にも溶け込んでいます。

移住するかしないかという二元論ではなく、こうした二拠点教育からスタートして、気に入ったら移住することもあり得ます。この先、親の働き方が変わっていく中で、子どもの教育のあり方も変化していくと考えられます。

・小学生が商品やサービスを企画して朝市に出店

大阪から秋田の五城目町に移住してきたNPO法人〈cobon〉の松浦真さん・智子さんご夫婦が行う「キッズクリエイティブマーケット」も秋田で注目の事例です。これまで小学生を中心としたまちづくり体験型の教育プログラムを実施してきたお二人が注目したのは520年もの歴史がある朝市でした。

キッズクリエイティブマーケットの様子

ご夫婦は、小学生が商品やサービスを企画して朝市に出店・現金で販売する取り組みをしています。ニーズを汲み取り、ユーザーが喜ぶことを子どもたちが自分で考えることで、受け身の教育では身につかない経験を得ることができます。ご夫婦は、このような先進的な教育ができるのも、町に住む人々の協力のおかげだとコメントしています。

・学校と学校外のどちらも大切にハイブリッドしていく学び方

松浦ご夫婦はこれまで行ってきたNPO型の活動に限らず、もっと先端的な学びこそ学力NO.1の秋田県で生まれるとよりインパクトが生まれると考え、「ハイブリッドスクーリング」事業を合同会社G-experienceでも行っています。

こちらは、「キッズクリエイティブマーケット」に参加した子どもたちを中心に、学校外での主体的な学び方を自ら追及していくというアクティブラーニング主体の取組。

決められた場所に通って学習するのではなく、自ら探究したことを定期的に会員限定のFacebookグループに共有していきます。ご夫婦のお子さんもこの学び方を進めており、自分でかまくらを創ったりしながら、どれぐらいの力がかかると雪が崩れるのかなどを調べたりしているそうです。

・地域の大人が子どもたちの先生に

地域の大人が先生となり、子どもたちに様々な学びを提供するプログラム「わらしべ塾」という取り組みも行われています。毎月10回程度、30講座以上ものラインナップが用意されており、自然体験、スポーツ、ものづくりなど、子どもたちの多様なニーズに対応しています。

子どもたちだけでなく、保護者や指導者・ボランティア等、地域住民が気軽に参加できる「交流の場」としての役割も果たしています。2013年度には「優れた地域による学校支援活動推進にかかる文部科学大臣表彰」を受賞しています。

秋田のローカルでは、地域で新たな仕事を作ろうとしている大人たちが、次の世代を担う子どもたちに贈与・投資していく流れをつくろうという動きも生まれています。大人が子どもたちに関わっていくことで、長い視点で持続可能な地域社会をつくっていけるのではないか、という考えを持って活動しているそうです。

・失われた子どもたちの居場所を再生

自然が豊かな土地では、子どもたちは山や川など自然のなかで遊んでいるイメージがあります。実際には、子どもたちが集まる場所がなくなってしまっているのが現状です。

少子化によって子どものいる家庭が町のなかで分散してしまい、移動手段がないため、子どもたちが集まってみんなで遊ぶことが難しくなっています。「一人で遊びに行くと危ない」と、子どもが山や川に行くことも敬遠されがちで、出かけることができません。

町中では、駄菓子屋やゲームセンターなどかつては子どもたちが集まる場所になっていた空間が過疎化とともに姿を消していき、子どもたちが集まる場所自体もなくなっています。そうなると、自宅でスマホやタブレットを使ってYouTubeを見る、ゲームをするなど、子どもたちの遊びの幅が限定されてしまいます。

秋田では地域の起業家たちが連携した民間発の動きで、今後こうした子どもたちに居場所をつくっていこうという構想があります。遊びを楽しめるだけでなく、デジタル学習コンテンツも用意し、相対的貧困状況にある家庭の子どもたちにもつながりや学びの機会を提供できるような空間を作り出す予定です。

・地域性を活かした食育

秋田では、農業の盛んな地域性を活かした食育も行われています。現代では、学校給食を給食センターで一括して作るようになったため、どこで誰が作られているのかわからない給食を食べるようになってしまっています。そこで五城目で栄養士の先生が中心となって始めたのが食育の取り組みです。

「身近な地元の食材でつくられた、健康的な食事を子ども達に食べてもらいたい」という思いから、地元生産者グループとの連携を通じて小中学校給食の「地元食材自給率約8割」を実現。

顔の見える地域の生産者が作った食材が使われていることで、子どもたちも作ってくれた人の顔を思い出すことになり、給食を食べ残すこともほとんどなくなったそうです。こちらも、先進的な取組として2014年に文部科学大臣賞を受賞しました。

教育水準の高さで知られてきた秋田ですが、従来通りの教育だけに留まらず、新たな教育の取組も進んでいます。秋田では、この先も教育のグラデーションを色濃くしていく動きが見られます。

全ての場所が学びのキャンパスとなる時代に向けて

オルタナティブな教育のあり方にも取り組む秋田県で開催されるユニークな取り組みが「ナナメ上いく学びの世界冒険キャンプ」です。

自分の普段住む町を離れ、これからの学び、働く、生きるを体感するこのプログラム。前述のキッズクリエイティブマーケットやわらしべ塾、日本一の給食などを2017年3月23日〜25日の3日間で体験します。

この先、さらに社会は大きく変化していきます。変化に伴って、これまで以上に教育にグラデーションが生まれます。地域コミュニティや自然との関わりから学びを得る、デジタルツールを用いるなど学習方法の選択肢が増えたりと、子どもたちの学びの可能性はどんどん広がっています。

東京で不登校だった子が地域のおじいちゃんの第二の孫的に居候したり、都会に住みつつ年の数ヶ月だけ親子で田舎に移住したり、学校に行かず家や地域の人で子どもを育てたり。

学校やひとつの地域に縛られずとも、日本中、世界中のどこでも自分の師匠となる人がいれば、全ての場所が学びのキャンパスとなる、そんな時代が訪れようとしています。


クリエイティブ・コモンズ・ライセンス
この作品は クリエイティブ・コモンズ 表示 – 非営利 – 改変禁止 4.0 国際 ライセンスの下に提供されています。

この記事の文章はクリエイティブ・コモンズ・ライセンスで公開されています。新しい教育の流れをより多くの方に伝えるために、ご利用いただければ幸いです。

取材協力:丑田俊輔、松浦真さん・智子さんファミリー
編集:モリジュンヤ
リサーチ・執筆:工藤瑞穂

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UNLEASH 編集部
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社会のイシューとソリューションを織り交ぜながら発信するフューチャーリソースライブラリ『UNLEASH(アンリーシュ)』の編集部です。

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