「企業や産業にデザインをインストールしていく」−−FinTechファンドなどより4億円を調達したグッドパッチが見据える課題

追加の資金調達を行ったグッドパッチは、金融業界を始め、レガシーな産業にデザインをインストールしていく挑戦に着手する。

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近年、海外を中心にデザインスタジオやデザインコンサルが事業会社、エージェンシーなどに買収されるニュースを目にする機会が増えている。

このムーブメントは、金融業も同様だ。金融ではFinTech事業者の台頭などにより、デジタルデザインに力をいれる動きが加速している。米国の金融大手キャピタル・ワンは、 2014年にUXコンサル大手のアダプティブパス(Adaptive Path)を2015年にデザインスタジオのモンスーン(Monsoon)を立て続けに買収。スペインのビルバオ・ビスカヤ・アルヘンタリア銀行(BBVA)も、2015年UXコンサルのスプリングスタジオ(Spring Studios)を買収した。

ここ日本でも、買収ではないものの金融分野におけるデザインへ注力する動きが加速し始めている。2017年4月26日、株式会社グッドパッチがFinTechファンドからの資金調達にともない、担当部署を立ち上げFinTech事業へ注力する旨を発表した。グッドパッチはSBIグループ内のFintechファンドを運用するSBIインベストメントと三井住友海上キャピタルを引受先とする総額4億円の第三者割当投資を実施。同社の第三者割当増資は2016年2月に続き、3度目となる。

グッドパッチは今後、FinTech領域を中心にIoT、ヘルスケアなどの成長領域におけるクライアントやパートナーとの連携を強化。自社で開発・運営するプロトタイピングツール『Prott』、フィードバックツール『Balto』の販促強化、そして新規プロダクト開発に力を入れていくという。

今回の調達、およびFinTech事業やグッドパッチの戦略について同社代表取締役の土屋尚史さんに話を伺った。

グッドパッチ代表取締役の土屋尚史さん

伸び代のある、ユーザー中心の金融へ

今回出資元となったSBIグループは、FinTech分野への造詣も深く、いくつものFinTechスタートアップへ出資も行っている。また、UI/UXデザインの重要性や金融におけるデザインの価値にも理解もあったことで、今回の資金調達へとつながったという。

「日本の金融業はこれまでデザインに長らく力を入れてきませんでした。取り扱う内容の難しさなどもあるでしょうが、対面で説明し、書類に記載し、契約を交わすといった旧来の方法を主としている業界です。メガバンクなどは特に保守的で、デザイン会社と協業するといった事例さえほぼないような状態と聞いています。しかし、マーケットが広がり、テクノロジーが普及し、誰もがスマートフォンなどを所有する時代。ユーザーを中心に考えると、金融業も変わらなければいけないフェーズに来ています。

以前からグッドパッチでは、金融業のなかでもFinTechサービスを提供する企業にデザインを提供してきました。古くはMoneyForwardのUIデザイン、最近ではMYDCという確定拠出年金のサービスにおいてUX設計からUIデザイン、フロントエンド開発などを担当しました。金融という規制業種だからこそ苦労する部分もあるでしょうが、今後変わっていかなければいけないということは、まだまだ伸び代があるということ。レバレッジが効く可能性があるともいえるのです」

企業にデザインをインストールしていかなければいけない

矢野経済研究所が2017年2月に発表したレポートによると、2015年度48億円だったFinTechの市場規模は、2021年には808億円まで増加するという。同様にFinTech分野における投資は今後ますます増大していく。グッドパッチはこの分野において、どのようにデザインを取り込んで行くのか。土屋さんは以下のように語る。

「我々はデザインカンパニーとして、企業にデザインをインストールしていきます。そのためには、デザインの価値を理解するカルチャーがなければ、いいデザインは根付きません。

カルチャーを作るために、『Prott』や『Balto』といったツールを導入したり、ユーザーに直接会いに行くといった、ユーザー視点を取り入れたデザインプロセスを導入する。これまで専門用語だけでまかりとおっていた世界をユーザー視点で見直し、ユーザーにとって理解しやすいものへと変えていく。この一連のプロセスを通して、カルチャーを根付かせていきます」

前述の通り、金融は規制業種と言うこともあり、特にデザインに力を入れてこなかった分野でもあった。しかし、デザインを企業にインストールすることは現在さまざまな企業において取り組まなければいけない課題であるのも確かだ。金融以外の業種について訪ねると、土屋さんは「これはある種、日本のデザイン業界の課題でもあるんです」と言葉を続けた。

「企業にデザインを取り込んで行くにあたり、大きな課題になると考えているのが、いかに企業の経営層にデザインを理解させるかです。これは日本のデザイン業界全体の課題でもあるのですが、現在日本のデザイン業のマーケット規模は3000億円程度しかありません。対して、アメリカは2兆円。日本よりGDPの少ないイギリスでも4000億円もの規模があります。

当然ですがマーケット規模を押し上げなければ、業界の成長は見込めません。抜本的にマーケットを拡大するためには、取締役が決めている予算を増やさなければいけない。しかし、予算が決まる取締役会の場にはデザイナーやデザインの価値をわかっている人がいないのが現状です。これを解決しなければいけません。」

この先10年で、デザイナーには経営目線が求められる

企業にデザインを組み込んでいくにあたって、ひいてはデザイン業界が成長するにあたっての課題を指摘する土屋さん。これらの課題を解決するためにデザイン業界やデザイナーには何ができるのだろうか。

「取締役といった要職にデザインの価値を理解する人がいない背景は、ビジネスを語れる経営目線を持ったデザイナーが少ないからではないかと考えています。デザイン業界全体として、経営目線を持ったデザイナーを育てていくこと。

デザイナーであっても経営目線を意識することは今後大事になってきます。そして、経営にデザインを取り込み企業のなかにデザインを取り入れていくはもちろん、企業の要職にデザイナーが食い込んでいかなければいけません」

実際、海外を見てみるとFortune 500に入ってる企業の約14%、ユニコーンの企業の20%はデザイン担当エグゼクティブを設置している。また海外ではデザインシンキングのMBAコースがあり、Airbnbのようにデザイン会社出身のスタートアップが世界を席巻している例もある。とはいえ、デザイナーはあくまでもプレイヤーで有り続けたいという人も少なくないという。

「もちろん、デザイナーのなかには現場に居たい、マネージャーになりたくないという人も少なくありません。特にデジタル領域では技術の進歩が早くキャッチアップし続けることは大変です。

経営は面倒ですし、さまざまな責任を取らなければいけない。でも数値や結果の責任までしっかりとれるデザイナーが今後の企業経営では必要になってきます。

たとえば、15年前にCTOを設置している企業はほぼありませんでしたが、いまはどこにでも居ますよね。ここからの10年で考えると、デザインも同様にマネージするエグゼクティブが必要になってくるでしょう」

ここ数年、特に必要性が高まっているデザイナーという職業。デザインを社会へインストールするためには、デザイナーが経営サイドに参画していくことは間違いなく必要になってきている。

次の10年に向け、経営目線を持つデザイナーはどのようにして増やすのか。グッドパッチ含め、業界全体として今後を期待したい。

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小山 和之
小山 和之

編集者・ライター。1989年生まれ。建築の意匠設計を経て、Webコンサル会社にて企業のWeb戦略ディレクション、オウンドメディアの企画・立ち上げ・編集等に従事。傍ら個人でもフリーの編集者・ライターとして活動した後、現在に至る。

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