政府に意思表明する手段は選挙とデモだけではない。変革を促すための“市民ロビー活動”とは?

『変革のための市民ロビー活動』の著者で市民起業家のアルベルト・アルマノ氏の来日に合わせて開催されたミートアップイベントの様子をレポート。

Tweet about this on TwitterShare on FacebookBuffer this pageEmail this to someone

現代の日本において、政府に対して不満を抱いたとき、私たちは適切に意思表明ができているといえるのだろうか。

選挙やデモなど意思表示の手段はあるが、積極的に参加している人は決して多くはない。国際比較調査グループISSPの調査では、デモについて「今までしたことがないし、今後もするつもりはない」と回答した人が75%に上った。

「不当だと思う法律などが国会で審議されているとしたら、何かしようとする可能性はどのくらいあるか」という質問に「あると思う」と答えたのは18%にとどまり、政治参加に対する意欲の低さが浮き彫りになった。

どうすれば「傍観者」から「参加者」になれるのだろうか。

政治参加の有用な手段「ロビー活動」とは?

『変革のための市民ロビー活動』の著者で市民起業家のアルベルト・アルマノ氏は「市民ロビー活動」に打開策を見出している。

「ロビー活動」とは社会課題に対する主義主張を政策に反映させるために政府へ働きかける活動を指す。欧米では製薬企業や全米ライフル協会など、巨大な組織が既得権益を守るための狡猾な手段としてネガティブに取り上げられることも多い。

では、アルマノ氏の提唱する市民ロビー活動とは、一体どのような活動を指すのだろうか。書籍出版に合わせて来日されたアルベルト・アルマノ氏を招き、市民ロビー活動の可能性を考えるイベント「Meetup with Alberto Alemano 『変革のための市民ロビー活動』」では、市民ロビー活動に関する同士の考えが共有された。

同イベントの主催者は、政策コミュニケーションなどを専門とするマカイラ株式会社の藤井 宏一郎氏と、メディアコンサルティングやコミュニティー支援を行う株式会社ソーシャルカンパニーの市川裕康氏。市民ロビー活動について一人でも多くの人に知ってほしいとの想いから草の根的に本イベントの開催を企画に至ったという。

イベント冒頭に「自らの抱えている意思を問いながら聞いてほしい」と呼びかけたアルマノ氏。彼の描く「変革のための市民ロビー活動」のあり方から、私たちが能動的に社会に参加し、社会をより良い形で変えていくための手がかりを探る。

私たちはなぜ「知識があるけれど無力」なのか

まず、アルマノ氏は、市民ロビー活動の背景を紐解く。キーワードとして挙げたのは「knowledgeble but powerless(知識はあるが無力である)」という言葉。具体的な人物像とともに説明してくれた。

「例えば、理想は雄弁に語るが具体的な成果を出せない活動家、会社では出世株だが社会に直接貢献できていないと悩むビジネスパーソン、理論を学んでばかりで実践の機会がない学生。みなさんの周囲にも似たような人がいないでしょうか?

彼らに共通しているのは、十分な教育、豊かで自由な生活、そして社会に対する圧倒的な無力感です。日本を含む先進国ではこうした例が数多くあります」

一定の知識やスキルを勝ち取った人たちだからこそ、「社会に対して何も還元できないという意識」が、より一層無力感を増幅させるいう。

政府に対する不信感とカウンターパートの不足

無力感と並行するトレンドが「政府に対する信頼の低下」だ。エデルマンが実施した調査ではNGOやビジネス、メディア、政府のうち、政府に対する信頼度が最も低い結果となった。アルマノ氏は信頼低下を引き起こした原因の一つは、政府と市民の対話不足にあると考えている。

「政策に関連するミーティングのうち、政府と企業やポリシーメーカーの間で行われているのが70%、残りたった20%しか労働組合やNGO、市民団体との対話に割かれていません。一般市民の影響力が圧倒的に少ない」

二つ目の原因は、市民が影響力を発揮する手段を選んでいない点だ。アルマノ氏によると、一般市民の意思表示手段として最も頻繁に行われるのが、マイクロドネーションだという。マイクロドネーションとはオンラインで経由の少額寄付、あるいは単にSNSでいいねやシェアを送り合う活動を意味する。

しかし、アルマノ氏は「マイクロドネーションにおいて市民はあくまで観客でしかない」と指摘する。市民はカウンターパート(対抗勢力)として、企業やポリシーメーカーに匹敵する影響力を行使しなければならない。

「現状では政府に対して訴えかけていくためのカウンターパート(対抗勢力)が足りません。政治家や企業は財力とマーケティング戦略を駆使して、一般市民に向けて偏ったメッセージを発信し続けることも容易にできるでしょう。

なぜなら私たちは対抗勢力として行動を起こす代わりに、SNSで受動的に情報を受け取るだけの時間を過ごしているからです」


(2016年と2017年のNGO、ビジネス、メディア、政府に対する信頼度。メディアと政府は半数を下回る)

社会をよりよくするためにスキルを実践する場を探す

無力感と不信感を抱えた市民がどうすれば政府に対して変化を促せるのだろうか。

アルマノ氏は「知識はあるが無力」な市民が、知識やスキルを実践する場を見つける必要があると説く。

具体的な例として、Facebookのデータ利用約款に対する規制を求めたオーストリア人学生の活動を挙げる。

「法学を専攻していた彼は、約款の内容がEU法に抵触すると訴え、クラウドファンディングで10ユーロずつ支援を募りました。その後、プロボノの弁護士の協力を得て、世界で最も意欲的なデータ保護規則が欧州委員会で承認されました。一人の市民が知識やスキルを活かし、大規模な変化をもたらした理想的な例です」

彼のように、スキルを駆使して積極的に社会変革を推し進める「市民ロビイスト」こそが、企業やポリシーメーカに対するカウンターパートとして必要なのだとアルマノ氏は述べる。


(公共戦略のコンサルを行うマカイラ株式会社の藤井宏一郎氏が逐次通訳を務めた)

私たちが「市民ロビイスト」であるべき理由

「市民ロビイスト」として社会変革に参加するには何から始めればいいのだろうか。アルマノ氏はまず取り組む社会課題を選ぶよう呼びかけた。

「近くの図書館の充実や自転車レーンの設置など社会課題の規模は問いません。自分の暮らしにとって重要だと思えるトピックを探してみてください。

見つかったら、電話やメール、SNSを通じて自らの意見を政治家に対して提示する、あるいはFacebookページを作って署名を呼びかけてみましょう。週に数時間でもいいから、望ましい未来に向けた行動をしてほしい」

また、支持したい活動を行なっている団体があれば、ボランティアやプロボノとして参加するのも、市民ロビイング活動の一つだという。

最後に、市民ロビイストとして活動する上での心構えとして、他人のために時間と労力を捧げているのではなく、「自分のためにやっているのだと意識すべき」だと述べた。

アルマノ氏によると、市民ロビーイングが不可能で抑圧された社会よりも、市民が社会に参加し世の中を変えていけると実感できている社会の方が、市民全体の幸福レベルが高くなったそうだ。

「人は経済的な成功や社会的ステータスにも喜びを感じるでしょう。しかし人を最も幸せにするのは、社会に貢献して誰かに感謝される経験です。なので躊躇せずに、自分のための一歩を踏み出してほしいと思っています」

成果を測る難しさと日本におけるロールモデルの不在

アルマノ氏のプレゼン後は、市民ロビー活動について参加者とともに議論していく。参加者から「日本においては市民によるロビー活動のプロセスやロールモデルの共有が不十分だ」という意見が挙がった

冒頭の統計に現れていた通り、日本では市民の政治参加への意欲が低い傾向にある。アルマノ氏も具体的なロールモデルの不在に強く同意を示した。

「日本人がロビー活動を行う上で最大の障壁は、多忙さではなく、『自分もできる』と信じていない点だと思います。個人がどのように変革を果たしたかというストーリーの共有が足りていないからです」

変革までのストーリーを共有するという観点について、イベントに参加していた『Change.org』の武村若葉氏が、オンライン上で署名を集められる同サービスの役割を解説していく。

「Change.orgの署名ページでは、各々が個人のストーリーや想いを綴り、共感した人が賛同者として意思表明します。賛同者リストやコメントリストを印刷して、政治家に陳情を行なった事例もあります。

一般市民から発せられたストーリーが賛同者を呼び、対話を重ね、オフラインの場で変化の波紋を生むきっかけをもたらしてきました」


(Change.orgについて飛び入りで説明を加えてくれた武村若葉氏)

政治家と市民が”選挙の合間”に結ぶべき信頼関係

確かにオンラインで署名を集めることは容易になったが、実際に政治家に対してどの程度の影響を与えられるのだろうか。アルマノ氏は選挙の合間にこそロビー活動を積み重ねる重要性を説明する。

「仮に人々が1万人の署名を集め、政治家へ陳情したとすれば、選挙の年に政治家が課題を見過ごせなくなるでしょう。あくまで私たちは主権を貸しているだけだという意識が欠かせません」

政治家に対する働きかけの提案を受け、区長選挙へのに立候補経験のある会場にいた政治家の方から「政治家はどうすれば市民と相談し合う関係を紡いでいけるのか」という質問も挙がった。

アルマノ氏は、マーケットのニーズを掴みビジネスを提案する起業家のように、市民の声を拾ってシステムに反映すべく声を上げる『ポリティシャン・アントレプレナー(政治家起業家)』が求められると考えているという。

「例えば、政府の不正を暴く内部通報者を保護する法案が欧州で成立したきっかけは、欧州のとある政治家による市民への問いかけでした。そこから関係団体の協力を得て、欧州議会での成立を導いたのです。

市民はロビー活動によって意見を伝え、政治家は市民のニーズを掬い上げ的確な提案を行う。対立するだけではなく議論を重ね、社会変革のために互いに歩み寄れる関係づくりこそが、より良い社会に不可欠です」

アルマノ氏は、市民ロビー活動の先には、市民と政治家の対話が大切だと締め括った。彼の話からは、市民によるロビー活動は単に政府を糾弾したり、異なる意見をねじ伏せたりするのではなく、建設的な議論の種をまく手段であることが伺えた。

先日の選挙の前後には「投票しない人は政府に口出しするべきでない」といった言説もSNSで多くみられた。もちろん投票は重要な意思表明だが、選挙の合間にも個人が社会課題の解決に向けて声を上げる手段は残されている。

アルマノ氏の著書『変革のための市民ロビー活動』の副題は「find your voice to create a better society(より良い社会のために自分の声を上げよう[筆者訳])」だ。これから社会をよりよい方向に導いていくためには、匿名の一票による意思表明だけでなく、自身の想いを起点に周囲と協働し、政府との対話を試みる必要があるのではないだろうか。

Tweet about this on TwitterShare on FacebookBuffer this pageEmail this to someone
haruka mukai

1993年石川県生まれ。ソフトウェアの翻訳アルバイトを経てウェブメディアでライターとして活動。現在はライティング・翻訳と並行して、オンライン英会話の会社でオウンドメディアの運営を担当。関心事はテクノロジーと言語、ラジオとスタンドアップコメディ

No Comments Yet

Leave a Reply

Your email address will not be published.

CAPTCHA


『UNLEASH(アンリーシュ)』は、ビジネス、カルチャー、デザイン、テクノロジーの話題を発信するオンラインメディアです。

サイトを翻訳する