書く人をエンパワメントするライティングツール「stone」が生まれたワケ——「伝える」を加速させる。書く、読むUI #uicrunch

2018年3月13日、UIデザインイベント『UI Crunch』の12回目が開催された。 今回のテーマは『「伝える」を加速させる。書く、読むUI』。はじめに登壇したのは、日本デザインセンター横田泰斗氏と北本浩之氏だ。テーマは同社が手がけるテキストエディタ『「stone」のUIデザインについて』。

デザインビジネスマガジン『designing』より転載)

2018年3月13日、UIデザインイベント『UI Crunch』の12回目が開催された。 UI Crunchは、UIデザインを追求していくコミュニティー。GoodpatchとDeNAが主体となり、UI開発に関わるすべての人を対象とした勉強会やワークショップを定期的に開催している。

12回目となる今回のテーマは『「伝える」を加速させる。書く、読むUI』。動画や写真などビジュアルコミュニケーションの価値が注目を集める一方で、改めて書く・読むにフォーカスしたUIを考えていく。

イベントは全4部のプレゼンテーション方式。

はじめに登壇したのは、株式会社日本デザインセンター Webデザイナーの横田泰斗氏とアートディレクター・グラフィックデザイナーの北本浩之氏だ。テーマは同社が手がけるテキストエディタ『「stone」のUIデザインについて』。

なぜライティングプロセスは1つのツールに終始するのか

stoneを手がける日本デザインセンター(以下・NDC)は、日本を代表するデザインファームのひとつ。亀倉雄策、原弘、田中一光、山城隆一といった現在の広告クリエイティブの礎を作った人物たちによって1959年に創業された。

現在は代表に原研哉氏が就任、広告分野からVIなどのアイデンティティ、インターフェース、空間、エディトリアル、映像など、媒体を問わずさまざまなデザイン業務に携わる。

今回登壇された、北本氏はアートディレクター・グラフィックデザイナーとしてグラフィック・紙媒体を中心に担当。横田氏はWebデザイナーとしてデジタル領域を担当しているという。

同社が手がけるstoneは日本語を書くためのテキストエディタとして、2017年11月末にリリースされた。

stoneのコンセプトは「清らかな気持ちで文章を書く。そのために機能は極力そぎ落とし簡潔 に、画面はシンプルで、文字が美しくつづられる、『素』のノート」。とにかくものを書く行為の中で「書き出す」ところに特化したテキストエディタだ。

デザイン作業はさまざまなアプリケーションを行き来する一方、ライティングはツールが分かれていないという点に疑問を感じたところからstoneの構想は始まった。

横田泰斗氏(以下・敬称略):Webでは作業のフェーズごとにツールを変化させていくのに、テキストはそうではない。たとえば最初からWordで作ろうとすると、スタイリングなど当初は使わない機能なども画面の中にある。そこで集中できるのかと疑問に感じるとともに、書く楽しみが失われているのでは無いかと思いました。

その疑問を起点に生まれたのがstoneのアイデアだった。当初は素のノート「snote」という名前で開発を進められていたほど、シンプルなつくりを意識していたという。

横田:stoneはエディタではなくライティングソフトと呼んでいます。編集機能がないからこそ、書きたいという欲求を、書く気分を高められる。アプリケーションというよりは文房具を目指しました。

北本浩之氏(以下・敬称略):僕はボールペンにこだわりがあるのですが、それと同じようにアプリケーションにこだわりを持てることは少ない。文房具と同じようにこだわりを持てるアプリケーションを作りたいという想いがありました。

具体的には、「完全にプレーンな背景」「薄くグレーがかった背景色」「万年筆のようにほんの少し紺色が入った文字色」「書籍のようにスクロールで切れる行を非表示」などに想いが反映されている。アプリを「紙、机、ペン」と考えデザインに落とし込んでいるという。

横田:単に静的なモチーフに終始せず、デジタルならではの要素を意識しました。文字数の変更やカウント、行間・文字サイズの調整、フルスクリーンといったデジタルならではのインタラクションを加えてアップデートしています。

デザイン会社だからできたことできなかったこと

前述の通り、NDCは広告デザインやグラフィックの分野の第一人者として長らく業界を牽引するデザインファームだ。

今回のstoneはデジタルプロダクトであるものの、前述のとおり、紙・机・ペンというフィジカルのオブジェクトをデザイン要素として落とし込んでいる。それは組版も同様だ。

stoneはライティングツールというプロダクトの性質上、厳密な組版はできないものの、一般的なテキストエディタでは到底行っていないであろうレベルの綿密さで、日本語がきれいに表示されるよう尽力していた。

北本:読みやすいレイアウトを提供するため、ウィンドウに対し余白を設けたり、組版や本文書体の選定などはかなり細やかに設計しました。約物の調整やべた組み、全角ダーシのつなぎや、欧文混植、縦組み時の半角数字の縦中横など。やり過ぎて読みづらくならないよう、塩梅を見つつ調整しました。

フォントも作り込んでいる。遊書体を基本に混植。欧文フォントはプロダクトを海外展開することを意識して選定しているという。

一方で、今回のプレゼンではサービス開発時にできなかったことにも言及された。いちばん苦労したのはやはり開発だったという。企画からリリースまでは2年ほどかかっている。というのも社内にエンジニアがおらず、開発部分をかなり手探りで進めることになった結果だという。

「書く人をエンパワメントする」プロダクトへ

プレゼンの最後はstoneの今後に言及された。

テキストエディタというとどうしても機能拡張が期待されるが、stoneの場合、機能を絞ることが1つの価値となっている。どのレベルまで拡張していくかという課題に現状は、ファイル形式が良い制約になっているという。

横田:リッチテキストになればできることは増えますが、サービスのコンセプトがぶれるので、プレーンテキストとして保存できることが良い意味での制約になっていると想っています。機能拡張はその範囲内で今後も対応していきたいと考えています。

stoneは今後プロダクトだけでは無く、「書く人をエンパワメントする」ものになっていきたいと考えている。

横田:われわれは現在『もの書きのてびき』というインタビューコンテンツを展開しています。これまで編集者や短歌をやっている人などに話を聞いてきました。インタビューをする中で感じたのが、sotneがどういうものか私たち自身も十分にわかっていなかったということです。逆に、さまざまな人の話を聞く中で徐々にその輪郭が見えてきている。これからもその輪郭を明らかにしつつ、書く人をエンパワメントできる存在を目指していきたいと思っています。

stoneはこれからプラットフォーム展開は進める予定だという。iOS、とくにiPadへの対応は数多くの要望が集まっている。加えて、Windows版の開発や多言語対応も現在検討を進めているそうだ。いずれもエンジニアやサポートメンバーを募集しているという。

また販売チャネルも実験したいと考えて居るという。現状アプリと言えばApp Store等からのDLが基本だが、文章に興味がある人とのタッチポイントとして、書店や雑貨店でフィジカルのパッケージ展開も考えているそうだ。

いち文筆業の人間としても、今後の展開が楽しみだ。

デザインビジネスマガジン『designing』より転載)

小山 和之
小山 和之

編集者・ライター。1989年生まれ。建築の意匠設計を経て、Webコンサル会社にて企業のWeb戦略ディレクション、オウンドメディアの企画・立ち上げ・編集等に従事。傍ら個人でもフリーの編集者・ライターとして活動した後、現在に至る。

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