需要高まるコミュニティデザインを“愛着”と“誇り”から捉える。『ミミクリデザイン』公開研究会

ワークショップデザインを得意とするコンサルティングファーム『株式会社ミミクリデザイン』が公開研究会を開催。人が良好な関係性の中で繋がり、目的達成に向け持続的に活動していけるコミュニティは、どうデザインしていけるのか。参加者と共に議論を交わした。

ここ数年で、地域やビジネスなど多様な領域で“コミュニティ”という言葉を耳にするようになった。その背景の一つには、従来の縦割り組織ではなく、組織や業界を横断した多様な個人のコラボレーションによって生まれる課題解決や新たな価値創出への期待があるだろう。

社会全体でコミュニティの数は増えているが、多くの主宰者が「活動が継続しない」あるいは「運営メンバーのモチベーションが維持されない」などの課題に直面している。しかしコミュニティの定義は広く「こうすればうまくいく」といった定石があるわけでもない。それゆえ適切な解決策を打てないケースも多い。

こうした課題について考えるために、ワークショップデザインを得意とするコンサルティングファーム『株式会社ミミクリデザイン(以下、ミミクリデザイン)』は、公開研究会『コミュニティデザインの技法を探る-愛着と誇りが持てる共同体をつくるには?』を開催。

人と人が良好な関係性の中で繋がり、目的達成に向け持続的に活動していけるコミュニティは、どうデザインしていけるのか。「愛着と誇りが持てるコミュニティ(共同体)をつくるには?」という問いを立て、ワークショップも交えながら参加者と共に議論を交わした。

今、“コミュニティ”に目を向ける理由

イベントのファシリテーターを務めるのは、「ミミクリデザイン」でワークショップの企画やファシリテーションに取り組む和泉裕之氏。和泉氏は、数多くの組織開発やブランディングを目的としたワークショップ、コミュニティデザインに携わってきた。

イベントの冒頭では「ミミクリデザイン」が“コミュニティ”をテーマに掲げた理由について、MITの教授ダニエル・キムの『組織の成功循環モデル』を挙げて、こう説明した。

和泉「『組織の成功循環モデル』とは、組織が何かを価値を生み出そうとしたときに、個人の思考や行動より前に、関係性の質を見直す必要があるという理論です。

つまり、その場限りのワークショップを開催するだけでなく、コミュニティ内部でどのような関係性を紡ぐのかという視点が問われる。

今日は、持続的な“コミュニティ”とは何か、いったいどのようにデザインできるのかについて、皆さんと一緒に掘り下げていきたい。」

まずはアイスブレイクとして、テーブルごとに自己紹介を実施。普段の仕事や活動、参加理由に加えて、「あなたが一番苦手なコミュニティは?」「あなたが一番好きなコミュニティは?」を共有する。

苦手なコミュニティについては、自動的に決まる「縦割り型」のコミュニティ、あるいは自治会やPTAなど「抜けたくても抜けづらい」ものが挙がった。

好きなコミュニティについては、サウナやスポーツなど趣味で繋がるサークルのように「自らの意思で入った」コミュニティの居心地の良さを語る人が多く見られた。一言でコミュニティと言っても、その定義は多様であることが伺える。

“実践共同体”から、愛着と誇りに必要な要素を探る

自己紹介後は「ミミクリデザイン」でリサーチャーを務める東南裕美氏が、“実践共同体”という概念や、そのデザインの手法について共有した。地域活性の文脈でコミュニティデザインについて学んできた東南氏は、その手法を捉える切り口として“実践共同体”に着目している。

東南「実践共同体とは、特定のテーマについて集い、目的達成のために動き、活動のなかで知識や技術を身につける人の集まりを指します。

“実践共同体”に新しく入ってきたメンバーは、中世の徒弟のようにコミュニティへの参加を通じて新たな技能を身につけ、自身のアイデンティティを確立していく。その過程は今日の研究会のテーマである愛着や誇りと関連性があるのではないでしょうか。」

東南氏が共有してくれた資料から。実践共同体は知識の創造を目的に「有機的に進化し続ける」コミュニティだ。

地域活性化を軸に多数な実践共同体のあり方を研究していく中で、東南氏は愛着や誇りを持てるコミュニティに必要な要素が3つに分類できるのではと語る。

東南「1つ目は『メンバーに役割をつくる』ことです。小さくとも『役割』を用意すると、メンバーが『貢献できている』と感じやすくなります。そのためには、コミュニティに不完全さが残っていることも大切です。

2つ目は『多様な参加の仕方を許容する』こと。タイミングが合えば参加するというメンバーも受け入れられると、多くの人がゆるやかでも『このコミュニティの一員である』と認識している状況をつくれます。

3つ目は『個々の興味関心と接続できる機会を用意する』ことです。大切なのはコミュニティのテーマと関心の近いメンバーを集めるだけでなく、個人の興味関心によってテーマや取り組み内容も柔軟に変えていく姿勢です。愛着を深めることにもつながると考えています。」

“コミュニティデザイン”の実践者に求められること

和泉氏は立ち上げに関わったコミュニティの事例を挙げながら、“実践者”の目線からコミュニティの運営において重要な視点を共有した。

和泉氏が携わってきたのは中野区にある調剤薬局『なごみ薬局』。和泉氏がオーナーへ聞き取りに行った際には、近隣薬局との差別化や採用強化、薬局で働く薬剤師の満足度向上など、多様な経営課題が浮かび上がってきたという。

そこで和泉氏はオーナーがこだわりを持って設えた北欧風の店内に着目する。そこを地域の人が集まる場所にするべく、ワークショップの定期的な開催を行った。

和泉「介護や医療に携わる人が知識や知恵、熱量を共有するコミュニティを目指しました。認知症や在宅ケアなどの医療関係のテーマについて、多様な人が集い、話し合えるようワークショップを設計しました。今では医療関係者だけでなく『なごみ薬局』の社員の方、患者の方、行政や大学関係の方など、地域の人たちが参加してくれています。」

多様な人同士の交流が育まれるに従って『なごみ薬局』のスタッフの間には「自分たちは魅力的な場で働いている」という意識が醸成されていった。ワークショップを通じて出会った人を採用した事例も生まれている。

『なごみ薬局』に地域の人々が集い、社員が誇りをもつ空気が出来上がるまでは、集客がうまくいかない時期もあったという。しかし、和泉氏は単発的な成果に囚われず、「コミュニティに参加してくれるメンバーの長期的な変化に目を向けること」を意識していた。

和泉「『以前は緊張して発言数の少なかった◯◯さんが、最近では自らの意見を積極的に言ってくれるようになった』あるいは『イベント終了直後に行う反省会議に、参加者側で来ていた人たちが出席してくれるようになった』といった変化を運営メンバーと共有し、成果の指標にしていました。一見些細な出来事に見えるかもしれませんが、参加メンバーにとってコミュニティの意味づけが変わった重要な瞬間かもしれません。『コミュニティがメンバーにとってどのような意味を持つか』という本質的な問いを常に意識しています。」

一からの立ち上げ、継続的にコミュニティ運営に携わるなかで、和泉氏は参加メンバーとの関係性の構築に、愛着や誇りを持ってもらうためのヒントがあると考えるようになった。

和泉「まず参加者に『ここでは自由に発言してもいいんだ』と安心感を持ってもらえるような空気を作り、その上で参加者に何かしらの相談やお願い事をする。そこで手伝ってくれた参加者に対して、運営者は心からの感謝や喜びの気持ちを態度で示すようにしていました。そうすることで、受動的な“参加者”から、積極的にコミュニティに関わる“出演者”へと、その人の役割に対する意味づけを変えていくことができます。

そして、コミュニティとの関わり方を柔軟にしておくこと。すでに存在する役割に当てはめるのではなく、その人の個性や関心にもとづいて役割を新たにつくる。独自の役割やルールが生まれることも愛着や誇りに繋がるはずです。」

会場では「ミミクリデザイン」の田中真里奈氏がグラフィックレコーディングを行った。

愛着や誇りがどのように生まれるのか

ここからは二人の発表を踏まえ、参加者同士がワークショップを行った。愛着や誇りとは何か、そしてそれら2つの要素を備えたコミュニティづくりについて考えていく。

ワークショップでは15~30分ごとにテーブルに座る人の組み合わせを変えながら対話を行う“ワールド・カフェ”の手法を採り、「愛着はどのようなときに生まれるのか」「誇りはどのようなときに生まれるのか」について、参加者が自由に意見を交わした。

愛着は「『好き』が重なっていったとき』や「苦労を乗り越えようとしたとき」に、誇りは「役割を果たせたとき」や「何かを言い続けたり実践し続けたりしたとき」といった意見が挙がった。

ほかにも「愛着は外にあるものに向けて抱くもので、誇りは自分の尊厳として内部に生まれる」や「『誇りを持っている』とわざわざ言わない方が誇りを感じられる」など、愛着や誇りに関するそもそもの定義から、コミュニティにとって必要かどうかなど、幅広い議論が行われた様子が伺えた。

コミュニティをつくるためのアイディアを練る

愛着と誇りについて共有した後は、「愛着や誇りが持てるコミュニティをつくるには?」について自由に議論を交わしていく。ここでは3つの異なるコミュニティのどれに関心が高いかによってテーブルのメンバーを組み直した。

1つ目は血縁のつながりをさすファーストプレイス(家庭)、2つ目は金銭や利害関係の発生するセカンドプレイス(職場や学校)、3つ目はより広い地域や公共空間、趣味関心の繋がりを指すサードプレイスだ。

テーブルで議論を行った後は個人ワークに移る。愛着や誇りをもたらすコミュニティをつくるために何をすべきか、そのアイディアをシートにまとめていった。

対話から生まれたアイディアを共有

個人のアイディアが完成した後はファーストプレイス、セカンドプレイス、サードプレイスの順番に、希望者が全体に向けて自身のアイディアを発表していく。

ファーストプレイスにを選んだ参加者は「人生の目標や家族のありたい姿について共有する会議を開く」という案を挙げた。定期的に開催することで互いに支え合っているという愛着を育み、個人の目標やありたい姿に近づいたときに誇りが生まれると考えたそう。

会議の際には「会話のトピックの描かれたサイコロを用いる」など、真面目になりすぎず話せる工夫をしたいと語ってくれた。

セカンドプレイスを選択した参加者は、企業内コミュニティにおいて、誇りを育むための案を共有した。

「社内ファシリテーターを育成するコミュニティ」において「異業種の企業と交流」する機会を設け、第三者の目線から企業のあり方を見つめるというアイディアだ。社内の人間では気づけない魅力の発掘により誇りを醸成するのが狙いだという。

サードプレイスからは、フットサルチームに所属している参加者が、「メンバーの出席率を示すことで関与度を可視化する」というアイディアを提案した。

定期的に数値をメンバー全員に共有することで、休みがちなメンバーの参加を促すだけでなく、「ちゃんと気にかけてくれているのだな」と愛着を感じてもらえるのではと語った。

他にも参加者のテーブルに置かれたシートには「まちづくりコミュニティで相手を褒めあうワークショップを定期開催する」や「ジョギングサークルでスタート地点を毎回メンバーの住む家に設定する」など、ユニークなアイディアが書かれていた。

多義的なコミュニティデザインを考えるために

研究会の最後にミミクリデザイン代表取締役の安斎勇樹氏が、本日の議論からの気づきを共有した。

安斎「ワークショップとコミュニティでは、起こす活動の濃度が違うのだと感じました。どちらも気づきや創発を起こすことが求められるのは同じですが、ワークショップは数時間や数日単位なのに対し、コミュニティは継続的に参加するもの。気づきの連続では疲れてしまう。だからこそ一定の淡さやゆるさを持たせる。あえて運営側が設計しきらず、余白を持たせることが、持続的に成長していくコミュニティにとって大切なのかもしれません。」

冒頭で述べた通り「コミュニティ」の捉え方は人によって多様なため、コミュニティづくりの手法を語るのは容易ではない。

今回「愛着」や「誇り」を切り口に掘り下げたことで、「可視化されていない魅力を褒め合う」や「相手を気にかけていると示す」、「少し“ゆるさ”を残しておく」など、持続するコミュニティづくりの手がかりを参加者それぞれが掴めたようだった。

今後もこの公開研究会そのものが多様な意見が交差する“実践共同体”として成長し、コミュニティデザインに関する議論を切り拓いてくれることを期待したい。

haruka mukai

1993年石川県生まれ。ソフトウェアの翻訳アルバイトを経てウェブメディアでライターとして活動。現在はライティング・翻訳と並行して、オンライン英会話の会社でオウンドメディアの運営を担当。関心事はテクノロジーと言語、ラジオとスタンドアップコメディ

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