道玄坂のブックカフェ「BOOK LAB TOKYO」が体制を刷新。書店の常識を打ち破る挑戦を始める

イベント、コミュニティ、メディアを軸に、新たな書店のビジネスモデルづくりに挑む。

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1年前の2016年6月25日、渋谷・道玄坂にブックカフェ「BOOK LAB TOKYO」がオープンした。

IT企業が集まる道玄坂の書店らしく、技術書やデザイン本、サイエンス、ビジネス書を中心に取り揃え、コーヒースタンドでは朝昼はコーヒーを提供し、夜はクラフトビール・ワインも提供している。

電源・USBコンセント/FREE Wi-Fiも完備されており、ユーザーにとってはありがたい。最大80人規模のイベントが可能な空間となっており、朝や夜に「BOOK LAB TOKYO」でイベントが開催されている様子がタイムラインに流れてくる。

実は本日、8月1日から「BOOK LAB TOKYO」が体制を新たに再スタートを切る。これまで運営をしていたLabit Inc.から事業が切り出され、BOOKLAB Inc.としてスピンアウトすることを視野に、株式会社HARES CEO、複業研究家であり、ランサーズのタレント社員でもある西村 創一朗氏がCEOに就任する。

「西村さん、6枚目の名刺を持ちませんか?」–「BOOK LAB TOKYO」の新たな一幕は、Labit Inc. CEOの鶴田浩之氏からのそんな一言から始まった。

渋谷・道玄坂に生まれた本屋

左から:新たにBOOK LAB TOKYO Inc. CEOに就任する西村氏と創業者の鶴田氏

2人の出会いは数年前に遡る。

西村氏が前職のリクルートキャリアに勤めていた際、当時の上司から「これからはキャリアを複線化する時代。うちのグループは専業禁止で行こう。みんな自分が好きなベンチャーやNPOで複業してみて」という使令が出た。その際複業で経営チームへのコーチングを行ったのがLabitだった。

その後は、Facebookでのソーシャルネットワークでのいわゆる「弱いつながり」状態だったそうだが、ある日鶴田氏の投稿が西村氏の目に留まる。

渋谷に “つくる人を応援する書店”「BOOK LAB TOKYO」を作ります!

前職の営業時代によく道玄坂を訪れた経験があり、本好きだった西村氏は、このエリアに気に入った本屋がないことに少しばかり不満があったという。ここに書店を作るプロジェクトはぜひ支援したい、そう思い「BOOK LAB TOKYO」のクラウドファンディングを支援した。

クラウドファンディングは、約2700万円を集めて達成。「BOOK LAB TOKYO」がスタートした。

「つくる人を応援する」をコンセプトにした書店

このスペースでは盛んに朝活や読書会が行われている。

「BOOK LAB TOKYO」がオープンした後、西村氏は足繁く同スペースに通った。渋谷は朝からやっているカフェが少なく、朝活の場として利用したり、イベントの開催場所として頻繁に利用していたという。

「BOOK LAB TOKYO」のスタートから1年が経過し、会社の事情で「BOOK LAB TOKYO」を切り離す必要が生じた鶴田氏は頭を悩ませた。

鶴田氏「BOOK LAB TOKYOは、Labitのオウンドメディア的な位置づけだと認識して運営してきました。この場所がきっかけとなって、エンジニアの採用にもつながっています。そのため、赤字になっていても、存続させる理由につながっていました。

ただ、独立させなければならないとなると、赤字のままにしておくわけにはいきません。僕自身はBOOK LAB TOKYO以外のことに集中しなければならなくなるため、BOOK LAB TOKYOを引き継ぎ、立て直してくれる人が必要でした」

鶴田氏が空間を閉鎖するという決断をしたくなかったのには、理由がある。BOOK LAB TOKYOを立ち上げるにあたって、クラウドファンディング以外にネットエイジ(現ユナイテッド)の西川潔氏もパトロンとして支援しており、その想いを引き継ぐ場所を残したいという想いがあった。

鶴田氏「西川さんは、日本のベンチャービジネスを支えてきた存在です。ただ、最近の若い起業家はネットエイジを知らなかったりする。僕は、西川さんへの恩返しも込めて、この場所をネットエイジが日本にもたらした文脈をつむいでいく場所にしたいと考えていました」

「つくる人を応援する」をコンセプトにした背景には、こうした理由があった。閉店にはしたくない、誰かこの場所を引き継いでくれないか、そう考えていた鶴田氏の目に西村氏のこんな投稿だった。

ランサーズに入社しました。『複業社員』という挑戦を始めます

西村氏が5枚目となる新たな名刺を持つことを発表した様子を見て、鶴田氏は西村氏に声をかけた。「6枚目の名刺を持ちませんか」と。

再起をはかる「BOOK LAB TOKYO」

西村氏「昔から本や文房具が好きで、いずれは自分の書店や文房具店を持ちたいと思っていました。ただ、それは余生を過ごすフェーズでやれたらいいなと思っていたんですが、期せずして機会が目の前に現れた感じですね」

西村氏は、話を持ちかけられた瞬間のことをこう振り返る。

西村氏「トレンドとして『コミュニティ』が注目を集めるようになってきています。僕は、本というメディアを媒介にして、コミュニティを作っていくことに強い関心がありました。BOOK LAB TOKYOであれば、自分のやりたいことに取り組める。ぜひやりたいと、前向きに話を進めていきました」

ただ、BOOK LAB TOKYOは毎月150万円の赤字が出ている状態。再スタートするとはいえ、与えられた時間はけして長くはない。年内の黒字化を目指し、9月末までの成果で撤退するか否かを判断することになった。

書店の新たな常識を作りたい

本好きな2人は強みを持ち寄りながら新たな書店のモデルを話し合う

西村氏「BOOK LAB TOKYOは、好立地でスペースも広いので、賃料が高い。書籍事業とカフェ事業がカニバリゼーションを起こしてしまっています。書店事業の売り上げは書籍の在庫数で決まりますが、カフェの座席があるがゆえに在庫数が限定されてしまう。

一方、飲食事業の収益性は『客単価×座席数×回転率』で決まりますが、書棚があると座席数は限定されてしまい、客単価も回転率も上がらない。現在のビジネスモデルで黒字化することは構造的に難しく、お店を存続させるためにはビジネスモデル自体の見直しが必要でした」

西村氏が「BOOK LAB TOKYO」の立て直しをはかる上で軸としたのが、「イベント」「コミュニティ」「メディア」の3つだ。

イベント

下北沢の「本屋 B&B」のようにイベントに力を入れている書店は存在する。イベントがあることにより、認知が広まり、書店に足を運ぶ人が増え、書籍が買われる。「BOOK LAB TOKYO」では、このイベント枠を埋めていく。

西村氏「BOOK LAB TOKYOの主催イベントとイベント貸出により、イベントを原則デイリーで実施していきます。平日は朝7:00〜9:00、夜18:00〜22:00の2スロットで、土日祝は終日フレキシブルに対応していきます」

さらに、イベント開催者向けに備品・オプションの充実をはかる。プロジェクター、マイク等の基本セットを無料にし、それ以外の備品も用意し有料で提供していく。写真撮影やグラフィックレコーディングなど、イベント開催者が活用したいオプションも提供していくという。

元々、「BOOK LAB TOKYO」はイベントの開催がしやすいように意識してデザインされていた。それをより強化していく形になる。

鶴田氏「BOOK LAB TOKYOを立ち上げる際に、オーガナイザーエクスペリエンスが充実するように意識して設計しました。自分が著者として各書店を回っていたときに、話しやすいかどうかが体験に影響すると実感しました。オーガナイザーやゲストが話やすければ、参加者も参加していて聞きやすいはず。イベントが開催しやすい場所になっていることは、魅力的な場にする上で大切です」

コミュニティ

イベントの充実と合わせてスタートするのが、「新しい読書体験をつくる」をキーワードにした会員制度「BOOK LAB OWNER’S CLUB(BLOC)」の新設だ。

BLOCは月額5000円〜15000円の有料会員制度で、作家数十名を含むコミュニティとなっている。入会することでコーヒー飲み放題、ドリンクが飲み放題で座席利用可能、本の作家と交流しながらマイクロオーナーとしてお店づくりに関わることができるほか、「BOOK LAB TOKYO」主催のイベントに優先招待、優待価格での参加が可能になる。

本日からCAMPFIREでクラウドファンディングもスタートしており、こちらでもマイクロオーナーを募集している。

西村氏「これまで、自分が運営するサロンなどで著者イベント等を開催してきました。そのため、著者との交流があり、すでに多くの著者の方々に協力いただけることになっています。著者もいる限定サロンへの参加が可能となれば、会員の方々のインセンティブにもつながります」

有料会員制度を導入すれば、リアルなスペースが会員の人々にとってのサロンと位置づけられる。場の位置づけや担う役割が増えることになる。イベントや会員制度で足元の売上を伸ばしていきながら、「BOOK LAB TOKYO」として注力していくのがメディア事業だ。

メディア

西村氏「空間・書棚・座席から構成されるブックカフェ、様々な体験をしていただくイベント、新たに立ち上げるウェブメディアの3つを、BOOK LAB TOKYOのメディアとして捉え直します。このメディアを枠として、クライアントに提供していきます」

カフェや書店のように多くの人々が足を運ぶ空間はメディアになる。「BOOK LAB TOKYO」では、下記のような活用案が練られているそうだ。

  • お店入り口左手の書棚を有料で提供し、企業のマーケティング&ブランディングに活用
  • 最先端のデバイスに出会える場として、ポップアップショップ的にキャンペーンを展開
  • 出版社や著者に書棚コーナーを提供し、書籍のPRやオンラインサロンへの動線に活用
  • 売り場も活用した採用プロモーションイベントをプロデュース
  • 販促、ブランディングを狙ったイベントの企画プロデュースからイベントレポートの作成・配信を行う
  • ブロガー向けの説明会パッケージなどを開発

「BOOK LAB TOKYO」の書店員には、元ヴィレッジヴァンガードでビジュアルマーチャンダイジングの経験を持つ人間もいるという。イベントが開催され、認知と客足が伸び、空間に魅力的な棚があれば、「BOOK LAB TOKYO」のビジネスが回っていく。

最近まで、東京都が快適通勤ムーブメント「時差Biz」を呼びかけていた影響もあり、朝活需要や時差ビズトレンドが盛り上がっている。「BOOK LAB TOKYO」では、その需要を取り込むために、開店時間を7:00からに前倒しするという。

「BOOK LAB TOKYO」がビジネストレンドを掴み、ビジネス層を取り込んでいくことができれば、多くの人々が足を運ぶ空間へと変わっていきそうだ。スタッフのコーチングにも、西村氏が培ってきた経験が活かされる。店舗運営のあり方も、変わっていくと考えられる。

「書店」という領域においても、新たな動きが次々と起き始めている。「BOOK LAB TOKYO」のような”ベンチャー気質”な書店が、どのような変化をもたらすのか。まずは再起後のスタートダッシュに注目したい。

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モリ ジュンヤ

『UNLEASH』編集長

inquire Inc. CEO。『greenz.jp』編集部にて編集、執筆、コミュニティマネジメントを担当し、副編集長を経て独立。フリーの編集者として『THE BRIDGE』『マチノコト』『soar』等メディアブランドの立ち上げに携わる。2015年にinquire Incを創業、企業や団体のメディアブランド構築、コンテンツ戦略の立案、インナーコミュニケーションの支援、情報発信の内製化支援等を行う。NPO法人soar副代表、NPO法人マチノコト理事、sentenceオーガナイザー。

『UNLEASH(アンリーシュ)』は、ビジネス、カルチャー、デザイン、テクノロジーの話題を発信するオンラインメディアです。

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