自分の”困りごと”の解決が社会の役に立つ。市民が課題解決の担い手となる『シビックテックイノベーション』書評

今回紹介する『シビックテックイノベーション ‐行動する市民エンジニアが社会を変える‐』では、市民ITエンジニアが社会や地域の課題を解決する新たな社会潮流を「シビックテックイノベーション」と定義し、取材をもとにした国内外の先行事例の紹介と、シビックテックイノベーションを起こしていくためのエコシステムについて解説している。

「課題先進国・日本」。環境問題、経済の低迷、地方の衰退など、急激な人口減少をはじめとする問題が山積する日本の状況に対して、そう表現されるようになって十年近い年月が経った。

人口減少による財政難により「小さな政府」にならざるを得ない行政。インターネットの普及や開発ツールの発展による「情報の民主化」。これらの背景から、市民ITエンジニアたちによる新しい動きが生み出されつつある。

今回紹介する『シビックテックイノベーション ‐行動する市民エンジニアが社会を変える‐(著者・松崎太亮 / 発行・インプレスR&D)』では、市民ITエンジニアが社会や地域の課題を解決する新たな社会潮流を「シビックテックイノベーション」と定義し、取材をもとにした国内外の先行事例の紹介と、シビックテックイノベーションを起こしていくためのエコシステムについて解説している。

ITは21世紀の「産業の米」であり、データは「21世紀の石油」と呼ばれ、プログラミング等のコンピュータサイエンスのスキルは社会を下支えする現代の「読み書きそろばん」である。

…このITやデータを駆使してコミュニティを作り、社会や地域課題の解決にともに取り組む新たな市民像を、本書では「シビックテック」と呼ぶ。(p5)

著者の松崎氏は、神戸市役所でICT創造担当部長を務め、神戸市のオープンデータサイトの開設やIT人材を育成するワークショップなどの業務を担当している人物だ。シビックテックと行政が協働して、市民がより暮らしやすい社会をつくるためのサービスを生み出し、向上していく“公民連携”の視点でも、新しい形も見ることができる。

ふがいない政府と立ち上がった市民エンジニア

シビックテックイノベーションとは、どのようにして始まったのか。一連のムーブメントの先駆けといえるCode for America。本書でも3~4章の2章に渡り、シビックテックの代表的な取り組みとして同事例を分析している。

Code for Americaは、「ともに考え、ともにつくる」というコンセプトのもと、市民ITエンジニアが主体となり、地域の課題を解決するコミュニティづくりに取り組んでいる。日本においても、一般社団法人Code for Japanが全国各地で活躍している。

CfAが創設されたきっかけは、政府のサービスへの国民の不満があった。…予算やさまざまな障害により政府が推進したいことが実施できない状況が、中央政府だけでなく地方政府にもあった。その結果、市民から「政府(地方も含む)は無能である」と不信感が高まっていた。

そこで、政府のサービスを改善するために、市民ITエンジニアが参加してアプリやシステムを開発・改善することにより、成功モデルを生み出すのを支援した。(p111-112)

上記の背景から、Code for America は2009年より活動をスタートし、はじめは建築・安全・治安などの分野における行政課題の解決に取り組んできた。今日では、中央政府や地方政府との協調も進み、市民の利便性が向上して、社会のさまざまな分野に大きなインパクトを与えるように発展してきた。

シビックテックイノベーションの価値はどこにあるのか?

社会にとってのシビックテックイノベーションの価値は、ひとつの実践で得られた知見を他の課題に応用できることにある。

これまでの社会課題を解決する技術の多くは、企業や大学・研究機関などの公的な組織から出されることが多かった。

…解決された課題は広く市民が利用できるモノやサービスとなったが、ニーズを持つ市民と企業・大学・研究機関が、地域においてともに課題解決をする機会は多くなかった。

そのため、課題解決はできても、その過程で生み出された新たな知恵や技術はそれぞれの中に蓄積され、それが他の同様の課題に対して応用される機会は少なかった。(p149-150)

企業や大学がそれぞれ個別に課題に取り組むと、解決することができても、そのプロセスで生まれた知恵や技術は、その1つの案件に内包されてしまい、他の同様の課題に応用されることはほとんどない。シビックテックによるコミュニティが形成されることにより、他の地域での活動へと伝播していく。地域の次世代育成や地域産業の活性化につながるために、複合的な地方創生のパートナーとなりうる可能性も秘めている。

参画する市民にとっては、肩書きを取り払った自分の居場所・役割を持つことができるという価値がある。著者はCode for Japanサミット2016のセッションで、参加者と次のように話している。

シビックテック活動に参加する理由として、「自社以外のさまざまな人と知り合い、人脈が広がる」、「コミュニティの持つ課題がわかった」、「結局は自分が困っていることを解決するのが社会にも役立つことが分かった」など、活動に参加する人々それぞれのモチベーションを持っている。(p153)

また、シビックテック活動を紹介するWEBメディアCivic Waveの編集メンバー・鈴木まなみ氏は、著者のインタビューに対し以下のように語っている。

「課題解決というマイナスをプラスにする活動だけではきっと継続しないし、広がりを生まないと思います。

…今までのように消費するだけの生活ではなく、生産者の1人として何かに関わっていく喜びを感じていく人が増えるのではないでしょうか。その選択肢の1つとして、やったことのフィードバックが得やすい地域活動は、重要な役割を担うとも思っています。」(p178)

課題を解決するだけでなく、つくり手の1人になることに喜びを感じる。社会に貢献している実感、人に必要とされている有用感を得ることができる。そんな心の充足感が、次の課題解決に向けたエネルギーとなるのだ。

ヒト・モノ・コト・カネに対する考え方の変革

シビックテックイノベーションを起こし、持続させていくためには、何が必要なのだろうか。著者は、「ヒト」「モノ」「コト」「カネ」の4つの要素において、以下のように考え方を変えていく必要があると述べている。

①ヒト=主体性を持って取り組む市民

解決を依頼する→自ら課題を発見し協働で解決する

②モノ=オープンソースで誰しもが広く活用できるIT技術

ITで何ができるか→課題解決にどうITを使うか

③コト=ヒトの知恵や知見を共有できる仕組み

公共が用意する→市民の資産を供用する

④カネ=活動を推進していくための資金

公共で賄う→賛同者も賄う

(p143を元に再整理)

4つの要素が相互に作用し合うことで、シビックテックイノベーションが実践されていく。

これらの「ヒト」「モノ」「コト」「カネ」の要素は、互いに関連し合うことにより相乗効果をもたらし、個々の市民を活動に誘うモチベーションを高める。

…要素の重なり合った中心には、新たなイノベーションが生まれて、社会のエコシステムとして相関関係を形成しながら伸展していく。(p143)

できることを、できる範囲で

「(不満だったら)自分で…試してみたまえ。(『学問のススメ』福沢諭吉)」

「Done is better than Perfect.(試みたことは、完璧よりも尊いのだ。)(Code for America本部の壁に書かれているメッセージ)」

1つ目の言葉は、本書の第一章に、2つ目の言葉は、あとがきの最後に引用されている。

自分や、自分の周りの人が抱える課題を、自分にできる範囲で解決を模索しつづけること。その小さな行動の一つひとつが、みんなにとってより暮らしやすい日本の社会をつくっていく、イノベーションの一端を担っていくのだと思った。

岡本 あかね
岡本 あかね

編集者、ディレクター、デザイナー。2013年より、社会の課題をデザインの力で解決する、ソーシャルデザインプロジェクトに従事。関心分野は、暮らし、教育、ものづくり、ビジネス。

『UNLEASH(アンリーシュ)』は、ビジネス、カルチャー、デザイン、テクノロジーの話題を発信するオンラインメディアです。