“選択”に悩むすべてのミレニアル世代へ。アメリカ社会のリアルと日常の愛しさを映し出す「マスター・オブ・ゼロ」

「よりよい選択肢があるのではないか」と、“選ばなかった選択”に思いを馳せてしまうミレニアル世代に勧めたい、Netflixのオリジナル作品「マスター・オブ・ゼロ(原題 Master of None)」。

マッチングアプリにグルメサイト、自分のためのカスタマイズされたSNSのタイムライン。私たちの周りには数多ある選択肢から最適なものを見つける手段で溢れている。

その便利さを存分に享受している一方で、「これが最適解なのだ」と心の底から納得するのは難しい。「よりよい選択肢があるのではないか」と、“選ばなかった選択”に思いを馳せてしまうミレニアル世代に、Netflixのオリジナル作品「マスター・オブ・ゼロ(原題 Master of None)」を勧めたい。

NY在住ミレニアル世代の愛すべき日常

本作の主人公はNY在住のインド系アメリカ人俳優デフ。俳優といえども代表作はお菓子のコマーシャルのみで、映画やドラマのオーディションでは脇役すら落ちてしまう。「マスター・オブ・ゼロ」は、そんなMaster of None(優れた芸のない)なデフが仕事や恋愛に奮闘する様子を描くコメディードラマだ。

脚本・主演を務めたのはインド系アメリカ人コメディアンのアジズ・アンザリ。米国の大人気ドラマ「パークス・アンド・レクリエーション」に出演し、一気にスターダムにのし上がった。

米国では、コメディアンが自身の生い立ちを活かしたネタを披露することが多く、アジズ・アンザリも例外ではない。自身のスタンダップコメディの舞台では、インド系アメリカ人2世として暮らすなかで経験した、マイノリティーに対する偏見やステレオタイプをユーモアたっぷりに語っている。

日々の生活と地続きの差別を軽やかに切り取る

本作品では人種問題だけでなく、フェミニズムや宗教といった社会的なテーマを扱っている。例えば4話目の「インド人・オン・TV」では、アメリカ育ちのデフがインド人訛りの英語を演技をするように指導されて抵抗を示す。7話目「紳士と淑女」では、知り合いの女性が怪しい男に襲われかけた話を聞き、デフはフェミニズムに関心を持つようになる。

こうした現代のアメリカを象徴するような題材も、友人たちとのシャレの効いたコミカルな会話とともに、あくまでデフの日常の延長として描かれる。白人のアーノルドや韓国系アメリカ人のブライアン、黒人でレズビアンのデニースなど人種や性別の異なるキャラクターが登場し、一つのトピックに対して多様な視点を提示している。

社会に対する鋭い眼差しを持つ作品でありながら、この魅力的なキャラクターたちが繰り広げる日常は愛おしくて仕方ない。

運命の相手をマッチングアプリで探し、夜は友人たちとドラマを一気見する。いつでも自由に仲間と飲みに行く”青春”を謳歌しつつも、仕事も恋愛も「これでいいのか」と不安を抱え、子を持つ友人を見るとつい胸がざわつく。そんなデフの姿に自身の姿を重ねてしまう人も多いはずだ。

選択肢は目の前に転がっているがどれを選び取ればいいのかわからない。デフに似た悩みを抱えている人にぜひ見てほしいと思う。悩んでいるうちにも、繰り返しのように思える日常は着実に変わっていくのだから。

haruka mukai

1993年石川県生まれ。ソフトウェアの翻訳アルバイトを経てウェブメディアでライターとして活動。現在はライティング・翻訳と並行して、オンライン英会話の会社でオウンドメディアの運営を担当。関心事はテクノロジーと言語、ラジオとスタンドアップコメディ