私の知らないあなたの世界を少しだけ。VRで認知症やレズビアンなど多様な日常を体験する

「シルバーウッド」はレズビアンや認知症など、さまざまな立場の人の日常を体感できるVRを発表してきた。なぜ実際に体験する価値を重要視する理由とは?

私の住んでいるマンションの前には小さな花壇がある。しかし、私がその存在に気づいたのは、引っ越して一年以上が経ったこの春のことだった。
花壇があることを教えてくれたのは娘だった。ちょうど娘の背丈と同じ大きさのその花壇を眺めるためにしゃがんでみたら、世界が少し、違って見えた。

娘の好きなピンクや黄色に彩られた花々。道に落ちている変な形の石ころ。自転車は車輪が大きくて、少し怖い。

「この子は、こんなに小さいんだな」

わかっていたのに、知らなかった。
自分と違う立場や目線に立つと、相手のことをもっと理解できる。そんなの当たり前のことかもしれないけれど、これがけっこう難しいのだ。

なかなか理解し合えない私達の世界を繋ぐため、挑戦し続けている企業が、「株式会社シルバーウッド」だ。同社はこれまで認知症の患者やワーキングマザーなど、さまざまな立場の人の日常を体感できるVRを発表してきた。本稿ではレインボープライド2018にて同社が展示した、レズビアンの女性の日常を体感できるVR「LGBT×VR ~レズビアンオフィス編~」を紹介する。

内緒の彼女との日常ってどんな感じだろう?

「LGBT×VR ~レズビアンオフィス編~」では、来場者たちが28歳の会社員、鈴さんの視点を体験した。体験時間は約10分間と短いが、交際しているカミングアウト済みの彼女、紗希さんが朝起こしてくれるシーンや、ランチタイムに同僚たちから付き合っている“彼氏”との関係について聞かれるシーンなど、リアリティに富んだ構成になっている。展示の制作にはレズビアンの当事者である社員も参加していたという。

この展示には約600人が来場し、自分と異なるセクシャリティや性別、年齢で過ごす日常を体験した。体と心の性が一緒で、生まれてこのかた好きになった人は男性のみの筆者にとって、鈴さんの日常はどんな風に見えるのだろう?

ひょっとすると、全く知らない新しい世界が広がるかもしれない。あるいはこれまで頭で“知って”いたことをより深く理解できるかもしれない。そう考えると、楽しくなる。

閉鎖的な施設から、快適な家へ

シルバーウッドがこうしたVR事業に着手した背景には、同社が運営する高齢者向け住宅「銀木犀」がある。ヒノキの無垢材のフローリングや凝ったデザインのインテリア、おしゃれなカフェといっても通じそうな佇まい。入り口には駄菓子屋さんが設置されるなど、遊びも効いている。

従来の高齢者向け施設のイメージとかけ離れた銀木犀の入居率は、常にほぼ100%だそう。また、多くの高齢者住宅において看取り率が20〜30%なのに対し、銀木犀での看取り率は75%を超えている。

同社は多くの高齢者と触れ合うなかで、認知症についてもっと多くの人が知る必要性を感じ、認知症VRを開発したという。代表の下河原氏は「変わるべきは、周囲の対応」であると語っている

テクノロジーによって文字通り相手の目線を知ることができる今、私たちは互いの生きづらさや日常生活で抱える悩みを今まで以上に分かり合えるようになる。そしてその体験は、誰かを助けたいと思ったとき、大きな力を発揮するのだろう。

林琴奈

1992年生まれ、京都大学院で地質学を専攻。在学中に結婚・妊娠・出産を経験。趣味は読書、Instagram、ラップバトル鑑賞。関心領域は、自然科学・テクノロジー・教育。

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