テクノロジーの進歩はどこまで許されるのか?── ドーピングの概念を変える、脳を刺激するヘッドフォン登場

脳に電流を流してパフォーマンスを向上させる「Halo Neuroscience」。プロアスリートにも愛用されており、成績向上に役立っている。しかし、こうした最新技術がドーピングに当たるかどうか、近々検討を始めなければいけないだろう。

スポーツ選手は、一人の例外もなく、誰もが最高の記録を求めて日々努力をする。

来る日も来る日も、同じメニューを死にものぐるいでこなす。彼らの姿は、時には尊敬の眼差しでみられる。大舞台のパフォーマンスを通じて、私たちの心を奮い立たせることもある。その舞台の頂点に君臨するのが、オリンピックだ。

しかし、選手たちの情熱が、ドーピングという手段によって満たされる場合もある。ドーピング問題と聞いてすぐに思い浮かぶのは、平昌冬季オリンピックで、国としての出場が認められなかったロシアの一件だ。『Wired』の記事によると、国際オリンピック連盟は2011年以降、1,000人以上のアスリートに薬物を与えてドーピングをおこなっていたロシアを非難し、平昌オリンピックから締め出したという。

従来のドーピングは、こうした薬物を介して強制的に身体機能を向上させるものであった。しかし、近い将来、私たちは「ドーピング」の定義を考え直さなければいけない時期が来るだろう。

テクノロジーの発展と共に、身体機能を一時的に上げる手法は多様化している。たとえば、障害者スポーツ選手の義足や車椅子の性能をあげるといった事例が挙げられる。今回、アスリート向けに、パフォーマンスを上げるためのヘッドフォンを開発する「Halo Neuroscience(ヘーロー・ニューロサイエンス)」の事例を取り上げながら、これからのドーピングの概念を考えていきたい。

脳に電流を流してパフォーマンスを向上させる「Halo Neuroscience」

2013年にサンフランシスコで創業した「Halo Neuroscience」は、アスリート向けのヘッドフォンを開発する。累計2,470万ドルの大型資金調達を果たしている。

ヘッドフォンには無数の棘状の突起物が装着されている。これを水に浸して十分に濡らし、頭皮としっかりと接着させる。この突起物から電流が流れ、筋肉運動を支配する神経中枢「運動中枢」を刺激するのだ。電流の強さはユーザーが決められるが、実際に筆者が試した際には、一番弱い設定でも多少の痛みを感じた(詳細は製品紹介動画をご覧いただきたい)。

ターゲットユーザーはアスリートであるが、音楽家やアーティストにまで幅広く使われている。神経を刺激することで感覚が活性化され、本番で通常以上のパフォーマンスを発揮できるためだ。スタートアップイベント「TechCrunch Disrupt」で発表されたデータによると、米国代表のスキーチームに使ってもらった際、ジャンプ力が72%、コースを滑る正確性が78%向上したという。

「Halo Neuroscience」は、“神経刺激療法を身近なものに”というコンセプトを基に掲げ立ち上げられた。創業者は脳神経を長年研究してきた科学者であり、こうしたバックグラウンドに対しての投資家からの信頼は厚い。シード段階から著名投資家マーク・アンドリーセン氏が資金を入れていることから、シリコンバレーでの評判も高いといえるだろう。

「ドーピング」の線引きはどう変わってくるのか?

「Halo Neuroscience」の登場は、スポーツ業界を大きく変える潜在力がある。

現段階で、競技直前に脳神経に電流を流して、パフォーマンスを向上させていることを検査する仕組みはできていない。アマチュアスポーツになればなおさらだ。ヘッドフォンを通じて音楽を聞くこともできるため、周りからは好きな音楽を聞きながら集中力を高めているようにしか見えないだろう。

テクノロジーの発展と共に、薬物を使ったドーピング以外に、様々な形でパフォーマンスを向上させる施策が登場してくることは以前から予測されていた。たとえば、パラリンオリンピックの短距離走の選手が利用する義足の質に明らかな違いが出れば、自ずと成績に違いが発生してくてくる。もちろんハイテク過ぎれば、道具ドーピングとみなされる危険性はあるが、将来的には健常者のスピードを追い抜くレベルにまで機材の質が高まることも十分に考えられる。

アスリートは必死にライバルより良い成績をあげようと、日々パフォーマンスを磨く。そのためには、データ分析であったり、より軽い負荷で走れるシューズなどに手を出すのは自然なことだ。その中で、現状の道具ドーピングの定義では追いつけなくなる未来が、すぐそこにやってきている。

選手の鍛え方も変わってくる。「Halo Neuroscience」を利用し続けてしまうと、使わない日には極端に成績が落ちる可能性が出てくる。同社ヘッドフォン利用者の中で、こうした中毒性の問題が発生している可能性もある。こうした、アスリートがテクノロジーにどこまで依存するのかという議論もしなければならない。

まさにいま、私たちは「従来のドーピング」から「これからのドーピング」へと考え方を転換させなければならない過渡期にいる。今回紹介した「Halo Neruscienece」の登場は、こうした議論を加速させるきっかけとなるはずだ。

あらゆる競技において、テクノロジーを通じたサポートが必然となっている現代、何が許容され、何が許容されないかを考えなければいけないタイミングに差し掛かっているといえるだろう。

Img : Halo Neuroscience

Takashi Fuke

福家 隆 フリーランス / 米国の大学卒業後にシリコンバレー・サンフランシスコへ移住。約3年間、起業家やVCを取材。短尺ビジネス動画メディア『#LYVE』創業・編集長を務め、東京へ帰郷。『The Bridge』、『Inquire』に記事寄稿中。メディア、小売を中心に海外スタートアップ情報を発信

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