Googleが「悪にならない」という行動規範を削除。今、考えるべき情報社会の倫理観とは?

Googleが創業以来のミッション「Don't be evil(悪にならない)」を自社の行動規範から削除した。同社の行動規範変更のニュースを通じて、国家や企業、ユーザーなど、立場によって変わる「個人情報の扱われ方」について考える。

便利な世の中になった。スマホ一つあれば買い物、移動、メールや電話など、あらゆることができる時代だ。

しかし、いまや生活インフラとなったサービスの多くが、私たちの個人情報の上に成り立っている事実を忘れてはならない。

大半の人が気軽な気持ちで同意してしまうプライバシーに関する注意事項。一度同意してしまえば、プロフィールや日々の行動履歴といった個人情報を無料で渡すことを意味する。だが、同意後に企業側が私たちの情報をどのように利用しているのか、私たちに知る術はない。

「ユーザーは規約やポリシーに同意して利用している(個人情報を提供している)のだから問題ない」というのがサービス提供側の論理だろう。だが実際に規約やポリシーを読み、中身を理解している人はどれだけいるだろうか。

わたしたちは、自分の個人情報が思いもよらない使われ方をされているかもしれない時代に生きていることを認識しなければならない。

Googleが行動規範から「Don’t be evil(悪にならない)」を削除。その意味合いとは。

いま最もユーザーの個人情報を握っている企業のひとつが、ITの巨人たるGoogleだろう。検索、メール、地図に至るまで、生活に欠かせないサービスを提供する。

Googleは2018年5月、創業以来モットーにしていた一節「Don’t be evil(悪にならない)」を行動規範から削除した。その代わりとして、親会社「Alphabet」が「Do the right thing.(正しいことをしよう)」という新たな規範を示した。

今回の行動規範削除の影響を私たちはどう捉えればよいのだろうか。これを読み解くには、そもそもGoogleにとっての「悪」とは何なのかを考える必要がある。まずは昨今議論を巻き起こした米国国防総省のプロジェクト「Project Maven」の事例を挙げたい。

Googleは国防省と手を組み、AIを活用した画像認識技術の促進に取り組んでいる。しかし、ドローン兵器への技術転用が指摘され、数千人規模のGoogle従業員がプロジェクトへの協力をやめるよう嘆願書に署名するなど、長らく非難を受けた。こうした社内からのバッシングを受け、2019年3月をもって終了を迎えるプロジェクトの契約更新をおこなわない意向が報じられた

従来のGoogleのスタンスでは、兵器開発への協力が疑われるプロジェクトは「悪いこと」であると判断し参加をしなかっただろう。しかし、Googleにとって「正しいこと」とは何かと考えた際、結論づけられたのが国防総省への協力だったわけだ。

このように、善悪どちらの側面から物事を判断するかで決断は大きく変わる。軍事という国家の安全保障に携わることが完全に「悪いこと」であるとは言い切れない。しかし、従来のGoogleでは判断しえなかった決断をおこない、行動に変化がおきたことは事実であり、判断基準が過去の姿勢から反転した証左であろう。

同様の出来事がこれからも起こり得るかもしれない。 「Project Maven」では私たちユーザーの個人情報は用いられなかったが、仮に米国のためにGoogleユーザーの情報開示をすることが「正しいこと」であると判断されれれば、私たちのプライバシーが政府に握られる危険性も否定できない。

国家・企業・個人 ── 立場によって変わる「正しさ」

国家にとって国民のプライバシーを完全に把握することが「正しい」と考えるのが中国だ。

同国の警察は顔認証技術を備えたAR型グラスを導入した。犯罪記録が蓄積されたデータベースとリンクしており、グラスに搭載されたカメラを通じて歩行者の個人情報と前科データを即座に確認することができるという。指名手配犯の逮捕につながる一方、社会主義国家である中国の思想に反対する少数民族や民主主義思想を持つ国民の強制逮捕にもつながる技術だ。

米国ロイターの記事によれば全世界に10億ユーザーを抱えるメッセージアプリ「WeChat」に代表される中国ソーシャルネットワークサービスは、中国共産党が違法とみなすコンテンツの検閲が義務化されている。

また、2017年におこなわれたWeChatのプライバシーポリシーの更新において、政府機関や法執行機関からの要請に応じて、ユーザーの情報を保持および開示する必要があるとの追記がされており、国家への情報提供を公に認めるに至っている。

このように、国家や企業のポリシーによって私たちの個人情報の活用方法が大きく左右される。

Googleのように私たちの生活に浸透し、便利なサービスを提供し続けている企業は日々獲得するデータ量も膨大だ。こうした企業が行動規範を変更することによって、ユーザーが被る影響はことさら大きくなる。また、最大の権力を持つ国家のスタンスが変われば、個人情報の扱いにおける国民生活への影響は甚大なものになることはいうまでもない。

個人にとっての「正しさ」と、国家や企業の考える「正しさ」とは必ずしも一致しない現代。私たちが提供する個人情報が、納得する形で正しく企業に扱われているかを考えることが肝要となるはずだ。

個人情報がサービス利用後にどう扱われるのかを思考することが、情報社会を生きる私たちの責任である。その第一歩として、サービス利用開始時にプライバシーポリシーなどの規約事項にきちんと目を通して理解する姿勢が必要となる。

今回取り上げたGoogleの行動規範変更の話は、私たちの個人情報がどのように裏で扱われているかを慎重に考える、ターニングポイントとなるだろう。

Img: Stock CatalogRami Al-zayatDennis Jarvis, Shopcatalog

金井 良輔

1992年生まれ。関心領域はビジネス・デザイン・テクノロジー。趣味はコーヒーと漫画。