生きづらさを抱えたままでも、世の中は変えられる。家入一真氏たちがこれからの“社会貢献”を考えた #beyond_2

「解決はしてあげられないかもしれないけど、隣にいて手をつなぐことくらいはできる」 2018年6月17日に開催された社会貢献を考えるイベント「BEYOND 2.0」から社会課題に対し様々なアプローチで解決を試みる6人の起業家のトークをご紹介。

2011年、東日本大震災を受けて、日本社会の中で、人々が人生において追求する「価値」が変化したような気がする。建物は押しつぶされ、家財は濁流に飲み込まれる。そうした有形のものの儚さに対し、人々の「繋がり」や個々人の「思い」の強さという目に見えないものの可能性に多くの人が希望を抱くようになった。

現在25歳である筆者と同世代の友人・知人を見渡してみると、そのほとんどがお金を稼ぐことよりも、「どれだけ社会をよくする/変えることができるか」に高い価値を見出しているように感じる。

さらに、日本における私の実感は、世界に目を向けてみてもさほど異質なものではないらしい。例えば元Google社員のピョートル・フェリクス・グジバチによる著書『ニューエリート』では、現代社会における「成功」の要素の一つに「社会貢献」を挙げている。

「社会貢献」に意欲的な人が増える一方、課題に対してどう行動すべきなのかわからない、という壁にぶつかる人も少なくない。目的や手法、目指すゴールまで千差万別だからだ。

「ココロ踊る未来」のために、私たちは何ができるのだろうか。

その問いのヒントを探るため、社会課題の解決を担う人材やスタートアップの支援を行う「taliki(タリキ)」は観客参加型のイベント「BEYOND 2.0」を開催した。

ゲストも観客も渾然一体となって盛り上げる

イベントではソーシャルグッドな事業に取り組む起業家たちによるトークや、学生たちによる熱いピッチバトルが行われた。
このイベントの大きな特色は、リアルタイムで観客たちが参加できる点だ。

匿名で質問を送れるサービス「sli.do(スライドゥ)」のアプリを介し、トークセッションの最中に観客が登壇者への質問を送ることができる。舞台上のスライドに次々と質問が映し出され、登壇者や会場全体に共有される。ピッチバトルの際には、観客一人一人がもっとも共感できたピッチに投票を行った。

自分を突き動かす強い思いを根底に持ってほしい

イベント当日、会場に入ると、10代から20代前半と見受けられる若者たちが会場のそこかしこにいた。談笑したり、スマホ画面を見つめていたり、会場の音楽に身をのせたり、思い思いのスタイルで開演を待つ参加者たちからは、熱気とわずかな緊張が感じられた。

そんな、会場から沸き立つ観客たちの小さなざわめきの中で、BEYOND 2.0は始まった。

第一部のトークセッション「社会に向かう、若き経営者たち」では、シリアルアントレプレナーの塚本廉氏、シェアハウスの運営などを行うスタートアップ「アオイエ」のCEO、青木大和氏が登壇。モデレーターは、トークンエコノミーを用いた政治プラットフォームを提供する「PoliPoli」の伊藤和真氏が務めた。

10代や20代で起業し、社会構造に切り込む事業を展開する彼らの「若き挑戦の極意」とはいったい何なのか--。


(「アオイエ」のCEO 青木大和氏、「PoliPoli」の伊藤和真氏)

トークセッションは、先日資金調達を果たしたPoliPoli伊藤氏の話題を中心に、和気藹々とした雰囲気ではじまった。観客たちの緊張がいい具合にほどけていくのを感じる。

参加者の質問をきっかけに、「起業した理由」や「起業のモチベーション」へと話が及んだ。好奇心や“ノリ”を原動力に起業したという伊藤氏や塚本氏とは反対に、青木氏は怒りや抑えきれない衝動が起業のきっかけとなったと語る。

青木氏「心の底から湧き上がる怒りや、『これをより良くしたい』といった感情が起点にあります。それらをどう形にするか考えたときに、会社を興すという選択肢がしっくりきたんです。

起業するうえでは、個々人の根底にある思いが一番大切。もちろんマーケットを分析して起業した方が成功する確率は上げられる。でも、一番苦しくなった時に根底にある思いがないと乗り越えられない。その感情こそが、人間が生きるうえでもっとも重要だと思うし、みんなにも大事にしてほしい」


(シリアルアントレプレナーの塚本廉氏)

セッション後に会場から今後の目標を問われると、三者三様の答えが返ってきた。

伊藤氏「PoliPoliのビジョンは『テクノロジーで国家システムを再構築する』」です。ネット上で新しい政治の形を見つけるのが目標。数十年後には国を作りたいという野望もあるので、ぜひ注目していてほしいです」

青木氏「移動式住居をつくっていきたいですね。現在、フリーランスなど多様な働き方が増え、定住する必要がなくなってきています。そもそも歴史的に見ると、人類は狩猟移動民族だった時期も長い。自動運転技術が発達する中、今後は家が勝手に移動し、そのなかで人が暮らすような未来がくると考えています。」

塚本氏「子供のリアルな視線、ふとした瞬間どんなものを見ているのかを残していきたい。その時の感覚を残すために、どういう手法を利用するか、ドローンなのか、目に機器を装着するのかなどを今考えているところです」

彼らの一言一言にエネルギーや自信に満ち溢れていて、参加者のモチベーションの高まりが肌で伝わって来た。会場全体の温度が上がったところで、トークセッション第一部は幕を閉じた。

目の前の人をどれだけ幸せにしようと思ってもお金がないと何も動かない

第二部のトークセッション「社会貢献で食べていくということ」は、タイトルの通り「お金」が主要なテーマだ。このセッションを開催したきっかけとなった経験について、モデレーターであり、本イベントを主催するtalikiの代表取締役中村多伽氏が語った。

中村氏「非営利団体の代表として、カンボジアで小学校や図書館を建てる経験をしました。そこで気づいたのは、資本主義においては自分が持つ経済力によって、与えられるインパクトが決まるということ。

かといって自己犠牲的な貢献は持続可能なのものではない。社会課題を解決する人をどうやって資本主義の枠組みの中でも活躍できるようにするかということを考えてtalikiを立ち上げました。そうした社会貢献とお金の関係性について、お二人に多様な視点からお伺いしたい」


(talikiの代表取締役 中村多伽氏、認定NPO法人のD×P理事長の今井紀明氏)

今回パネラーとして参加するのは、株式会社CAMPFIRE代表の家入一真氏と認定NPO法人のD×P理事長の今井紀明氏。中村氏にとって、2人はお金の問題から目を逸らさず、事業を行なっている印象だったという。

今井氏が理事長を務める認定NPO法人D×Pは通信・定時制高校の学生支援を行っている。

今井氏「通信制、定時制高校と提携して、彼らが大人と関わり、将来を考えるための授業を行なったり、就職相談室を設置したりといった活動をしています。公立高校は財政的に厳しい状況に置かれているところが多いため、なかなか予算を確保できない。そこを寄付で集めようとしました。僕たちの役割は行政や会社がサポートできていないターゲットを支えることだからです。」

中村氏「本当に支援を必要としている人を救うために、経済合理性を一旦無視するという経営判断をしたのですね。」

今井氏「そうですね。日本の若者支援にはお金が集まりにくいという印象が強くあったのですが、子供達がどのような状況にあるのかをSNSなどでちゃんと発信していったところ、共感者が増え、寄付の金額も増えていきました。」

「共感が集まるとともに寄付が増えていった」という今井氏の話を受けて、家入氏は2012年に、クラウドファウンディングで学費を募るプラットフォーム「studygift」を立ち上げた経験を語る。

家入氏「『studygift』で実現したかったのは、まさにその顔の見える寄付だったんです。けれど学費を苦労してどうにかする経験って、多くの人が通る道だからこそ、『ズルい』とか『こうすべきじゃない』という既成概念が沢山あると気づけた。人から寄付を集めるときには、お金に対する考えと向き合っていくかが問われるのだなって」

今井氏「たしかに寄付って上の年代の人にとっては、すごく重大なものっていう価値観があった。それを変えたのが、家入さんの作った『polca』だと思うんです。『CAMPFIRE』と『polca』のおかげで、お金で支援するハードルがめちゃめちゃ下がった。」

中村氏「今日会場にも、polcaで交通費を集めて会場まで来てくれた人もいます。誰もが気軽に誰かを応援したり、支援を募ったりできる。これが『滑らかなお金』か!と実感しました。一方で、『NPO法人は稼いではいけない』という考えも根強くありますよね。」

今井氏「寄付で運営していても、利益を出さないと人材も集まりません。NPO法人は稼いではいけないという考えは、炎上しててでも変えていかなくてはならないと思います。僕たちも非営利法人ですが、ある程度しっかり利益を出しています。お金を残さないと、次の年への投資もできませんから。」

既成概念に真っ向勝負する気概の今井氏の発言に対し、家入氏はなめらかな変革を提案する。

家入氏「この10年くらいでようやく日本で『持続可能性』を重視する考え方が根付いてきた。NPOが利益を出すことを批判する人たちに対していきなり根っこからひっくり返るようなアイデアを提案するってやり方もあると思う。けれど僕はプラットフォームという形でなめらかに実現し、批判する人との対話を促していきたい。」

苦しくなったら、いつでも連絡して

「お金」についての議論が盛りあがる一方、会場のスライドには参加者からの質問が映し出される。ひときわ切実な思いの綴られた質問を、中村氏が読み上げた。

『生きづらさに押しつぶされます。生きづらさを抱えたままどうやって生きづらさを解消しようというところまでいけるのでしょうか?』

家入氏「『過去の辛い経験やコンプレックスをどう解消するか』という相談をよく受けるんですけど、解消なんてできないと思うんです。それよりもどう付き合って生きるかを考えたほうがいいかもしれない。その辛さがあったからこそできること、やる意義があることがたくさんあるから。向き合って生きていくしかないのかな、って。」

今井氏「しんどい状態の時に、そんな無理する必要はないと強く思うんです。やっぱり僕も、生きづらさには向き合っていかなきゃって思っているから。

今ここで答えは出せなくて、その人その人にしか伝えられない。一般論で語れない。その人の中にある答えでしか動かせない。だから僕も常に悩んでます。」

トークセッションの締めの言葉として、家入氏と今井氏は生きづらさを抱えながらも、今日この場に足を運んだ未来の起業家にエールを送った。

家入氏「投資の判断基準って色々あると思うんだけど、僕は圧倒的にその人の原体験なんですよ。起業すると大変なことが山ほど起きる。それでも這いつくばって打席に立ってバット振り続けられるのって原体験だったり、辛い過去だったり、コンプレックスがある人なんですよ。社会に自分を合わせられなくって、むしろ自分に社会を合わせようとする人が起業家だと思う。だから僕と話してみたいなという方がこの会場にいたらぜひ、話しかけてください。」

今井氏「ここの会場にいる人で何かチャレンジしてみたい、polcaでお金集めて何かやってみたいって人がいれば、絶対に支援したいと思っています。僕は引きこもりになったり、対人恐怖症になって再起不能のような状態からいろんな人に助けられてきた。だからお金を若者支援に使いたい。それがお金を繋いでいくことだと思っているから。」

家入氏、今井氏の言葉を受け、中村氏も会場に声をかける。

中村氏「死にたいとか苦しいと思うことは、誰しも思う当たり前のこと。そういう時、一声かけてくれたら解決はしてあげられないかもしれないけど、隣にいて手をつなぐことくらいはできるので、そういう人がいたらいつでもタリキチに遊びに来てください。」

「困ったらいつでも連絡して」

よく聞く台詞だけれど、3人が最後に投げかけたその言葉には、“生きづらさ”を抱える一人一人と向き合っていこうという強い力を感じられた。精神的に、金銭的に苦しくてドン底の時、見知らぬ誰かがそっと手を差し伸べてくれる。そんな世界はなんと優しいことか。

帰り道。

私にとっての原体験ってなんなんだろう。できることってなんなんだろう。そんなことを考えながら、山陰本線の窓に映る自分の姿をそっと見つめた。

大藤ヨシヲ

文芸作品や映画のレビューを主に行うフリーライター。大学在学中に結婚・妊娠・出産を経験。趣味は読書、自撮り、ラップバトル鑑賞。関心領域は、自然科学・テクノロジー・教育。