フードロスにLGBT、子どもの貧困。ビジネスで“優しい革命”を起こす学生たちの #beyond_2 ピッチバトル

「株式会社taliki」が運営するアクセラレータープログラム「タリキチプロジェクト」に参加する6人の若者によるピッチバトル。それぞれ違った個性を持った6つのソーシャルグッドな事業、優勝は誰の手に?

あなたは今、誰を救いたいですか?涙を堪えていた過去の自分?音信不通になった友人?隣で頭を抱えている恋人?
この世界にはたくさんの「救いたい」と「救われたい」があって、しかしその願いは多くの場合、叶わない。
叶わないから何もしない。それだって一つの生き方だろう。
でも、虚空を掴んででも何かを成し遂げようとする姿は、思いもよらぬ誰かを救ったりするんだ--。

優しい革命をおこそう

2018年6月17日。大きな覚悟を持ってこの日を迎えた6人の若者がいた。彼らは、「株式会社taliki」が運営するアクセラレータープログラム「タリキチプロジェクト」の参加者たち。社会課題を解決するアイディアを、2ヶ月間かけて実現可能なビジネスプロジェクトとして成長させてきた。

この日はtalikiが主催するイベント「BEYONS 2.0」の開催日であり、セッションの一つとして彼らの2ヶ月間の集大成とも言える「ピッチバトル」が行われる。

発表時間が刻一刻と迫る中、彼らの緊張が会場全体に伝わってくるようだった。そんな中、司会者がセッションの開始を告げ、映像を流しはじめる。
映像の終盤、壇上の画面いっぱいにこんな言葉が浮かび上がった。

優しい革命をおこそう。
誰かを傷つけるためではなく、
誰かを救うための革命を。

既存の構造を否定するのではなく、
既存の構造を再定義する革命を。

自分自身を犠牲にするのではなく、
自分自身を愛するための革命を。

逆境を乗り越えろ。
資本主義に殴り込め。

世界を変えるのは、君の夢中だ。

観客席の片隅にいた私は、この言葉によって一瞬で惹きこまれた。

審査員を務めるのは、株式会社CAMPFIRE代表の家入一真氏、シリアルアントレプレナー(連続起業家)の塚本廉氏、AK Capital株式会社の吉川英治氏、そして、インキュベイトファンドの和田圭祐氏だ。

こうして、6人によるピッチバトルが始まった。

貧困の当事者だった自分だからこそできること

先陣を切ったのは、大阪府立大学4回生の平井大輝氏。貧困家庭で思うように勉学に時間を割けなかった経験を生かし、大学入学後は、貧困家庭の子供を対象にした学習支援に取り組んできたという。

貧困家庭の中高生と交流するなかで、平井氏は大きな社会課題を感じたそう。

平井氏「これまでに交流してきた子どもの多くは、貧困や、労働力のある大人が周りに少ないといった環境要因から、低学力や低学歴に陥ったり、将来に希望が見出せなくなっていました。その結果、貧困家庭の子どものキャリア選択の幅が狭まってしまうのです。」

選択肢を広げるために、平井氏は、貧困家庭の高校生に対象を絞り、企業でプログラミングを学びながら報酬を得られるインターン制度という発想に行き着いた。

現在、IT企業一社が資金提供を表明し、9月から自習スペースを運営開始するという。平井氏は今後、支援制度の確立に向け、無料でプログラミングを学習できる場や受講生の確保や、インターンを受け入れてくれる企業との提携に注力していく。

偶然の感動を、必然のものに

二人目の発表者である、増田悠希氏は、ストリートアーティストと観客をマッチングするサービス「バスカーズネット」を提案。

増田氏は、信号待ちで出会ったストリートミュージシャンの演奏から着想を得たという。時間が過ぎるのも忘れ、音楽に没頭した瞬間の感動と興奮を多くの人に届け、同時にアーティストたちにも利益がでるビジネスモデルを考案した。

増田氏「ストリートアーティストのライブ情報はネット上で検索しづらく、SNSが普及した今なお偶然の出会いに頼ることしかできません。そこで、ストリートアーティストが自分自身や演奏について発信できるプラットフォームとオンラインマッチングサービスを組み合わせることで課題を解決できるのではないかと考えました」

ターゲットはストリートミュージックを好む人々、そして音楽は好きだけどストリートミュージックに足を運ぶきっかけがなかった人々だ。前者にはネット上で位置情報を共有し、演奏にアクセスしやすくする。後者にはアーティストにサービスを用いて情報発信してもらうことで、リーチを広げていきたいという。

増田氏は、このサービスを広く利用してもらうことで、「国中に音楽が溢れた日常を目指したい」と語った。

アレルギー患者も気軽に外食を。インクルーシブな飲食店評価サービス

同志社大学の鋤崎理子氏は、自身がピーナッツアレルギーが抱える当事者だ。そんな彼女は、実際にアレルギーを持つ患者に対し、「アレルギーが日常生活に支障をきたしているか?」というヒアリングを行なったそう。すると、アンケートの対象者のうち、実に72%が「支障をきたしている」と回答。その多くが飲食店での知識不足やアレルギー表の欠如に対し不満を抱えていたという。

そうした課題に対し、彼女は飲食店が抱える問題を解決しつつ、アレルギーについてより広範に認知を高める事業を模索した。

対象としたのは、個人経営の飲食店。その多くが、アレルギーを持つ利用客への対策を講じられていないという。一方で、個人経営がゆえに、新規顧客の導線を確保できずにいる。この2つの課題を同時に解決できないかと考えた。

鋤崎氏「個人経営の飲食店が抱える二つの問題を一度に解決するのが飲食店評価サービスの『ハットハント」』です。このサービスでは、飲食店同士が互いの店を評価することで、利用客は2つの飲食店の情報を手に入れることができます」

サービス内では、メニュー表にアレルギーの表記を義務付ける。またサービスには予約機能も搭載。予約の際に来客者の中にアレルギーを持った人がいるかどうかを入力してもらい、店舗だけでなくユーザーにもアレルギーに対する認知を高めてもらうという。

鋤崎氏が目指すのは、「飲食店探しをサポートしつつ、アレルギー患者の不安を取り除くことでより多くの人が食事を楽しめる社会」だ。

好きな人に、好きと言える日本を作りたい

22歳の中西高大氏が提案するのは誰もが性的マイノリティと診断されるWebサービス「あのね」だ。

LGBTQと称される性的マイノリティの割合は11人に1人。一部アンケートによると、日本におけるLGBTQの認知度は65%、同性婚に賛成する人の割合は70%に及ぶという。自治体や企業が同性間のパートナーシップ制度を導入するなど、社会的認知が広がっているが、LGBTQサークルに所属してきた中西氏は、未だに大きな壁があると感じている。

中西氏「多くの人がLGBTQについて知識を持っています。しかし、私のゲイの友達は、今なお身近な人々にもカミングアウトできないと話しています」

中西氏が、性的マイノリティでない人々にアンケートをとったところ、88.7%が身近に性的マイノリティの当事者はいないと答えた。

こうしたデータに対し、身近に当事者がいないと思っているために発せられる差別的発言がLGBTQの人々が抱える生きづらさの原因の一つなのではないかと考察した。

このサービスでは、心の性、性的嗜好、恋愛指向、ファッションの4軸、13問以上の設問から、その人の「性」を判断する。設問に対する答えから診断されるセクシャリティが他の人とかぶることはほとんどないという。その結果、多くの人に、「自分もマイノリティなんだ」と自覚する。

LGBTQを知ってはいるけれど、周りに当事者はいない、リベラルな考えを持つ人。こうした人が積極的にSNSで診断結果をシェアすることで、利用の拡大を目指す。

中西氏「僕が家族を持って子供が生まれた時に、セクシャリティによって進路を左右されたり、好きな人に好きと言えない日本をどうしても変えたい」

そう力強く宣言し、ピッチを終えた。

節約をフードロスにつなげる

今回の発表者の中で最年少である、同志社大学の渋谷咲希氏は、節約をフードロスに繋げる、食材管理アプリ「捨てない」を提案する。

年間600万トンのフードロスを生む、フードロス大国、日本。渋谷氏は全体のおよそ半分を占める家庭からのフードロスにフォーカスする。

渋谷氏「ターゲットは一人暮らしの大学生です。実際にアンケートをとってみると、多くの学生が、節約のため安いうちに買いだめした食材をうまく使い切れないでいるということがわかりました」

多忙な学生たちに向け、食材管理の方法は、購入した食材のアイコンを押すというシンプルな方法を採用。期限が近づいてきたものには冷凍保存の方法など、なるべく長持ちさせられる手段を提案していくという。

アプリの仕組みを最大限簡略化することで、広く利用してもらえるよう工夫したという渋谷氏。「日本の家庭から出るフードロスを減らすことが目標です」と笑顔で語った。

スキマ時間×相互評価で雇用も労働ももっと自由に

相互評価とスキマ時間によるマッチングを導入した新しい人材サービス「バイマッチ」を提案したのは、同志社大学の近藤百合菜氏。

ターゲットはアルバイトを雇うお店と大学生。深刻な人手不足を抱える雇用側と、時間をうまく使いながらお金を稼ぎたい大学生、双方が抱える問題を新たなアプローチで解決していくという。

従来の人材サービスと決定的に異なるのは、利用者が空いている時間でアルバイトを検索できる、という点だ。さらに雇用主と働き手の質を担保するため、お店と大学生の間で相互評価を行なっていくそう。

サービス拡大に向け、雇用側が継続的に働いて欲しいと思えるような個性的な学生を積極的に勧誘していくという。

近藤氏「店側は、人手不足に悩まずサービス向上に専念でき、学生はバイトに縛られず、自分のやりたいことに専念できるそんな世界観を目指したい」

結果発表。賞は誰の手に?

全てのセッションを終え、イベントの最後に発表者の中から受賞者が選ばれた。今回のピッチバトルに対し、与えられる賞は3つ。審査員の総合評価が一番高かった人に与えられる「審査員賞」、観客による投票の結果、もっとも票を得た「オーディエンス賞」、「明日から走り出しそう」な勢いと力強さを感じさせる人に与えられる「taliki賞」だ。

「審査員賞」を受賞したのは、スキマ時間×相互評価で実現する新しい人材サービス「バイマッチ」を提案した近藤百合菜氏。壇上で近藤氏は、「2ヶ月間、本当に辛かった」と涙ながらに語った。

そして、「オーディエンス賞」は、「どんなセクシャリティを持っていても好きな人に好きと言える社会を実現したい」と宣言した中西高大氏に与えられた。中西氏は「今夜からまた頑張ります」とタフな姿勢を見せ、壇上を降りた。

最後に、自分自身の辛い過去から貧困の高校生を救うインターン制度を考案した平井大輝氏に「taliki賞」が授与された。彼は、最後まで力強いコメントを残してくれた。
「この2ヶ月間、本当にしんどかったけど、明日からまた走り出すんで、もっとしんどくなると思います!頑張ります!」

受賞したプロダクトは、新しい働き方、性的マイノリティの生きづらさ、子どもの貧困など、まさに、社会が抱える課題にアプローチしていくサービスたちだ。今回惜しくも受賞を逃した発表者たちのサービスを見ても、私たち見過ごしてはいけない社会の側面を的確に捉えようとしている。

彼らにとって、今回のピッチバトルはあくまで通過点だ。参加者たちの試行錯誤を2ヶ月間、メンターとして側で支えた審査員の塚本廉氏は以下のように語る。

塚本氏「出来る出来ないじゃなくて、やるかやらないか。自分のキャパシティを超えて、想像以上の経験をイメージ化までできれば、突っ走れる。まだ20代前半。今のプロダクトも含め、頑張ってほしい。」

彼らは今日もきっと、走り続けているのだろう。

そうした日々の積み重ね先で、再び彼らに出会う時。それはどんな場所で、彼らはどんなものを作っているのだろうか?そう考えると、私自身も奮い立たされる。

林琴奈

1992年生まれ、京都大学院で地質学を専攻。在学中に結婚・妊娠・出産を経験。趣味は読書、Instagram、ラップバトル鑑賞。関心領域は、自然科学・テクノロジー・教育。