“フェイク”ではないニュースに隠れた大きな課題。オランダの新興メディア編集長のジャーナリズムへの眼差し

「フェイクニュースを心配する代わりに、“リアルニュース”が抱えるより大きな課題についてエッセイを書いた。」

昨日の夜、こんなツイートが目に留まった。ツイートの主は、オランダの新興メディア「De Correspondent」の編集長Rob Wijnberg氏だった。“リアルニュース”って何なんだろう?

「De Correspondent」は2013年に、有料購読費のみで運営するメディアとしてローンチし、すでに6万人以上の有料会員を抱える。表層的に事象を切り取るのではなく、特派員たちが自身の関心や課題意識にもとづき、一つのテーマを深く掘り下げる記事が特徴だ。

Wijnberg氏は、昨年より米国での英語版に向けて準備を始めており、すでにローンチを間近に控えている。

冒頭に紹介したエッセイ(オランダ語ではなく英語で書かれている)からは、彼のニュースに対する危機感と、これから「De Correspondent」が追求したい姿がみえてくる。内容を少しかいつまんで紹介したい。

気づかないうちにミスリーディングが起きる理由

大学卒業後、ジャーナリストとして働き始めたWijnberg氏は、多くのニュースについて、“まるで世界がセンセーショナルで恐ろしく、非日常で、すぐに忘れ去られる出来事の連なりのように感じさせる”ものだと感じたという。

「凄まじい量のニュースに目を通すジャーナリストは、他のメディアで盛んに報じられているトピックこそが、今世界で起きている事象であり、自身がもっとも伝えるべきストーリーだと勘違いしてしまう。」

メディアが一つのトピックを一斉に報じる様子は、日本に住む私もすっかり見慣れてしまった。実家に帰ると、茶の間のテレビは朝から晩まで、ずっと同じニュースを流している。

こうしたニュースは、明らかな嘘をつく“フェイクニュース”のように、まったく誤った情報を伝えているわけではない。けれど、私たちの世界の見方は確実にどこか偏ってしまっている。

センセーショナルからファウンデーショナルへ

Wijnberg氏は、こうしたニュースに必要なのは、センセーショナルで時事的なものから脱し、より本質的で、自身の関心ひきつけた報道のあり方ではないかと語る。

それはまさに彼が「De Correspondent」で実践してきたことでもある。特派員は、時事的な出来事にもとづいて記事をつくるのではなく、時間をかけて自身の専門領域を掘り下げる。“現代において真に必要な発展のあり方に気づき、世に伝える”ために、十分の時間を確保する。

2016年にブリュッセルで爆破テロ事件が起きた際もオランダのメディアが大々的に取り上げるなか、あえて一言も事件に触れなかった。その姿勢によってさらに購読者が増えたという。

“進歩への信念”がメディア運営の基礎

「De Correspondent」のもう一つの特徴は情報の届け手と受け手が対等な関係を結んでいる点だ。

「ジャーナリストには、読者を受動的な情報の消費者ではなく、専門領域におけるアクティブな貢献者として捉えるよう伝えてきました。」

完成した記事を読者に届ける代わりに、事象を調べ、思考を深める過程を、読者と共有する。それに対して読者は、自身の経験や専門領域を活かして、ジャーナリストに貢献する。そのプロセスを通して、人間がよりよい存在として、成長を遂げる。それがWijnberg氏の願いであり、“リアルニュース”のあり方だ。

「『De Correspondent』の基礎にあるのは人間の進歩への信念です。」

今日も、私のTwitterのタイムラインには次々とニュースが流れ、誰かが反応し、それに対して誰かが反応し、怒ったり悲しんだりする。そのやりとりを眺めて、私も同じように怒ったり悲しんだりしている。

けれど、Wijnberg氏のいうように“人間の進歩”を信じ、議論を始めることもできるはずだ。せっかくメディアに携わっているのだから、その希望を信じたい。そう改めて思った。

haruka mukai

1993年石川県生まれ。ソフトウェアの翻訳アルバイトを経てウェブメディアでライターとして活動。現在はライティング・翻訳と並行して、オンライン英会話の会社でオウンドメディアの運営を担当。関心事はテクノロジーと言語、ラジオとスタンドアップコメディ