「読者は情報の渦に疲れきっている」——オランダのニュースレタープラットフォームがメディアと読者を紡ぎなおす

自国の政府、企業、メディア、NGO。これらのうち、あなたがもっとも「信頼していない」のはどの組織だろうか。

エデルマンの実施した調査によると、日本人が最も信頼していないのは「メディア」だった。「信頼している」と答えた人は32%にとどまり「フェイクニュースが武器として使われること」を危惧している人は62%に上る。

こうした傾向は他国にも共通している。とりわけアメリカを筆頭に、ソーシャルメディアのフィードや検索、ニュースアプリに対する信頼は、調査対象28ヶ国のうち21ヶ国で低下した。日本は前年比で1%増加しているが、数値自体は28ヶ国のなかで5番目に低い。

読者とメディア、ジャーナリストの間の溝が深まるなか、新たな接点を生み出そうとするスタートアップもある。誰でも簡単にニュースレターを発行できるプラットフォームを開発する『Revue』だ。

オランダ発の“エディトリアルニュースレター”プラットフォームとは?

『Revue』は、主にメディアやジャーナリストを対象に、無料でニュースレターの編集や配信、アクセスの管理を行えるプラットフォームを提供している。

ウェブサイトのリンクとテキストで構成されるニュースレター(彼らはエディトリアルニュースレターと呼ぶ)を作成できる。


(編集画面の様子。他のニュースレターを検索する機能もある)

SNSがあれば、メールアドレスを知らなくとも世界中に情報を発信できる時代だ。なぜ彼らはニュースレターというツールを提案するのだろうか。

情報の洪水のなかで、信頼できる情報を掴む方法

「関心のあるテーマについて、信頼できる人から情報を得る場が足りていないと、常に思っていました」

そう語るのは、『Revue』CEOのMartijn de Kuijper氏。コンピューターサイエンスを専攻し、自身を「Tech guy(技術者寄りの人間)」という彼が、なぜ2015年に『Revue』を立ち上げたのだろうか。

そのきっかけは自身が購読していたニュースレターだった。

Kuijper氏「当時は、FacebookやTwitterといったプラットフォームに対する危機感もまだ薄く、SNSに情報が溢れていました。しかし、そんな情報の洪水のなかで、ニュースを追いかけるのに疲弊してしまったんです。

代わりに読んでいたのが、とあるテックジャーナリストのニュースレターでした。彼の気になるニュースと、それに対する意見が並んだシンプルな内容。オランダ時間の毎週月曜日の朝に、そのニュースレターがメールボックスに届く。

毎週、彼の視点を介して、さまざまなニュースに触れる豊かな体験は、SNSでは得られないものだと感じました」

Kuijper氏のいう通り、メールボックスに届くニュースレターを読んでいる間は、広告や他の投稿が目を奪われることなく、目の前のコンテンツに集中できる。次々と情報が流れてくるSNSのタイムラインとは異なる体験だ。

Kuijper氏「多くのジャーナリストやメディアは、読者にコンテンツを届けるために、タイムラインの枠を争っています。そして、読者はその情報の渦に疲れきって、たまに記事をクリックしても、間に差し込まれる広告にうんざりしている。

当時は『Medium』のように、『読む』体験に特化したブログプラットフォームはありましたが、同じくらい読みやすいニュースレターを作成できるプラットフォームは見当たりませんでした。

僕はメディア業界においては素人でした。しかし、顕在化していたSNS疲れ、ニュースレターの提供する体験の相性を踏まえると、十分に成長の余地があると考えたんです」

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読者は“メディア”ではなく“ジャーナリスト”を頼る

Kuijper氏の期待通り2015年以来「Revue」は順調に成長を続けている。2018年時点で、およそ2万人のユーザーが、毎月200万件のニュースレターを発行し、ニュースレターの開封率は50%を誇る。

Kuijper氏「『Revue』で配信されるコンテンツは、いずれもウェブ上のコンテンツを整理し、それに対し、ジャーナリストやパブリッシャーの視点や意見が加えられたものがほとんど。読者は彼らのキュレーション、視点を知るために、能動的にニュースレターを選び取っている。それゆえ高い開封率が実現しているのだと思います」

また「Revue」の実施した調査では、およそ66%の読者が、メディアではなく個人のジャーナリストから情報を得ることを望むという結果も明らかになっている。

Kuijper氏は個人のジャーナリストがニュースレターを駆使して、エンゲージメントの高い読者を獲得している例を教えてくれた。

Kuijper氏「オランダの大手テレビ局『NOS』のジャーナリストは、トランプ大統領について書くニュースレターを発行し、およそ3万5000人の読者を獲得しています。開封率は60%を超え、オランダで高い支持を集めている。

引用しているのは他社のニュースがほとんどで、ジャーナリスト個人の意見や解釈を加えています。どこにも『NOS』に関連するサイトへのリンクや広告ありません。彼らはテレビ局の宣伝でもなく、本サイトへのPVを伸ばすためでもなく、ジャーナリストと読者の関係を構築するために、ニュースレターを利用しているんです」

閉じたメディアの集積にならないための機能

気がつけばTwitterのタイムラインを開いてしまう自分にとって、メールボックスに届いたニュースレターをじっくり読む時間は魅力的に映る。

一方で、誰もが気に入ったメディアやジャーナリストをフォローし、彼らの発する情報だけを追いかける状況は、今以上に情報の分断を生んでしまうのではという疑問も浮かぶ。

Kuijper氏はニュースレターのように“閉じた”メディアの危険性も踏まえ、今後の展望を次のように語ってくれた。

Kuijper氏「前提として、優れたジャーナリストの配信するニュースレターは、そうした“フィルターバブル”を意図的に壊してくれるものであると信じています。

ただ、やはり情報が偏ってしまう可能性はあるでしょう。それも見据え、いずれは『Revue』をコンテンツの作り手だけでなく、受け手のプラットフォームとして、機能を拡張させていきたい。

今はトピックごとにニュースレターを検索する機能しかありませんが、購読しているニュースレターに応じたレコメンドや、あえて守備範囲外のトピックと遭遇し、バブルの外に出られるような。そんな偶然の出会いもつくっていきたいですね」

“ニュースフィードに載るための戦いやアルゴリズムの開発はやめて、まっすぐに目の前の購読者に向けて文章を届ける”

「Revue」のウェブサイトには、そう掲げられている。ここ数年で崩れてしまった、読者とメディア、ジャーナリストの関係性。「Revue」はニュースレターという、より“親密”なメディアを介して、そのつながりを再構築しようとしている。

haruka mukai

1993年石川県生まれ。ソフトウェアの翻訳アルバイトを経てウェブメディアでライターとして活動。現在はライティング・翻訳と並行して、オンライン英会話の会社でオウンドメディアの運営を担当。関心事はテクノロジーと言語、ラジオとスタンドアップコメディ

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